がんは早期発見、早期治療が何より大事を実感 人間ドックで食道がん、そして前立腺がん

取材・文●髙橋良典
撮影●「がんサポート」編集部
発行:2021年9月
更新:2021年9月

  

野村哲朗さん 藤浪小道具株式会社代表取締役

のむら てつろう 1949年北海道美唄市生まれ。72年3月東京都立大学法学部卒業後、第一生命相互会社(現第一生命保険株式会社)。第一生命経済研究所、株式会社オリエントコーポレーション、株式会社オリエント総合研究所代表取締役を経て2012年7月藤浪小道具株式会社副社長として入社。13年3月より現職

老舗小道具会社の代表取締役社長である野村哲朗さんは、毎年人間ドックを受診するなど、健康には気を配ってきた。そのお陰もあって食道がん、前立腺がんとどちらのがんも早期に発見することができ、食道がんは内視鏡手術で、前立腺がんはダヴィンチ手術で治療は終わり、その後定期的に検査は行っている。

現在も膵臓と甲状腺に嚢胞を抱えているが、社員にも定期検診の大事さを説く野村さんに、2つのがんの経緯について訊いた――。

人間ドックで食道がんの疑いが

結果が出るまでは「がんではないと思う」と言った人間ドックの医師の言葉を信じていたと野村さん

歌舞伎向け小道具提供会社として1872年に創業され、歌舞伎やTVの装飾、製作、賃貸及び販売の老舗、藤浪小道具株式会社代表取締役の野村哲朗さんは責任ある立場でもあり、日頃から自身の健康には人一倍気を使ってきた。だからこそ毎年、秋に人間ドックで通常のX線検査、血液検査、胃と食道の内視鏡検査を受けていた。

すると、2017年秋の内視鏡検査で、「がんではないと思いますが、異形成の細胞が見つかったので、大きな病院で精密検査をしたほうがいいですよ」と医師から言われ、築地の国立がん研究センター中央病院を紹介された。

そこで再度、内視鏡検査を行なったところ、食道の中央部に1㎝の腫瘍が見つかった。

細胞診の結果、食道がんと診断されたが、「がんを内視鏡で切除してみないと、がんが上皮で止まっているか、もっと下層に深く浸潤しているか、わからない」ということだった。

内視鏡手術を行うと、幸いなことにがんは上皮で止まっていたので、内視鏡で切除するだけの治療で終わった。治療は1時間程度、入院5日目の朝には退院することができた。

「医師から、『食道がんは再発のリスクが高いので、タバコとアルコールは止めてください』と言われました。タバコは随分前に止めていましたが、酒は飲んでいましたので多少残念な気持もありましたが、思い切ってキッパリと止めました」

実は、野村さんは人間ドックを受ける4カ月前、喉に食べ物がつかえるような気がして、別の病院で検査をしていた。

「その病院で、『別に異常はない』と言われたので、人間ドックでの食道内視鏡検査はパスしようかとも思っていました。しかし、その検査料金がそんなに高くなかったので、ついでにといった軽いノリで検査しました。だから、がんセンターでの結果が出るまでは、人間ドックの医師が、『がんではないと思いますが……』と言った言葉を信じていました。だから、1つの病院だけではがんかどうかの診断はわからないものだと思いましたね。結果的には早期発見で幸いでしたが」

ただ、食道がんは再発しやすいということで半年に1度、内視鏡の検査がいまも続いている。

今度は前立腺に怪しい影が

そんな野村さんに、今度は前立腺にも何やらあやしい影が忍び寄っていた。

PSA値の数字が微妙に推移していたのだ。

10年前ぐらい前、一度PSA値が8もあり心配したのだが、そのときは白血球の数値も高く、医師からは「多分、炎症が起こっているのでしょう」と言われ、抗生物質を処方されて数値は下がり、一安心。その後2度ばかり数値が若干高くなったこともあったが、せいぜい5ぐらいまでだった。

ただ、白血球の数値は平常だったので、炎症のせいでPSA値が高くなったわけではなく、医師からはしばらく経過観察をしてみようという診断が下った。そこで、3カ月ごとにPSA値の検査をしていたが、2年間は5を基準に数値は上がったり下がったりしていた。

その後、徐々に数値が上り、5を超えて下がらなかったので、2020年3月にMRI検査をすることになった。その結果、医師から「5段階のうちの4段階目で、かなり怪しい」と告げられ、針生検を行なうことになった。4月に行う予定だったが、コロナの影響で7月まで延びて2泊3日の入院で行った。

野村さんが行った針生検は普通の針生検ではなく、MRI画像と超音波画像を融合させた経直腸超音波検査下前立腺標的針生検で、先に撮影したMRI画像を経直腸超音波画像に融合させ、MRI陽性病変をリアルタイムに超音波画像上で確認しながら生検を行うので、従来に比べより確実に腫瘍組織を採取することができる。ただし保険適用ではなく、高度先進医療のため11万円の料金がかかる。

ただ、アフラックのがん保険に加入しており、がんの確定診断は出ていなかったが、入院給付金と高度先進医療給付金が出たという。

MRI検査では腫瘍が通常と違う場所にあったこともあり、針を16本打った。結果は、前立腺がんの悪性度を表す指標のグリソンスコアは3+4で7と判定された。悪性度が中リスク群で、翌月の検査でも他に転移もないことが確認されたこともあって、医師からは「しばらく様子を見ましょう」と言われ、経過観察をしていた。

ところが今年(2021年)3月、MRIで撮影すると、若干腫瘍の影が拡がっていたのだった。

「これは治療をしたほうがいいです」と、画像を見た医師から言われた。

野村さんは自分の年齢も考慮して、腫瘍が拡がっていなければ放っておくつもりだった。

しかし、腫瘍が若干拡がっていたこと、また転移の心配もあることから治療に踏み切る決断をした。

前立腺治療には手術、放射線治療、ホルモン療法などさまざまあるのだが、野村さんの前立腺がんの場合、ベストな治療の選択は何か。

野村さんは〝体を傷つける手術よりも、小線源治療が望ましい〟と思っていた。

再発した場合のことも考え、ダヴィンチ手術を選択

では、野村さんが当初希望した「小線源治療」とは如何なる治療法か。

放射線治療には体外から放射線を照射する「外照射」と、体中から放射線を照射する「内照射」とがある。小線源治療は、内照射による治療法であり、放射線を出すヨウ素125線源を前立腺内に埋め込んで、体内から照射する療法で、早期の前立腺がんに対して行われる。

野村さんの主治医は小線源治療の専門家でもあったので、「小線源治療はどうでしょうか」と訊ねてみた。

すると主治医からは「再発した場合の予後が芳しくないので、この病院では手術を勧めます」という答えが返ってきた。

重粒子線治療についても訊ねてみたが、「野村さんのレベルでは治療の対象ではないですよ」とのことだった。

野村さんの訊ねた重粒子線治療とは重粒子(炭素イオン)を照射するので、体の浅い所では線量が低く、一定の深さになると高くなるピークがあるという特性から、がん病巣に照射のピークになるよう狙いを定めてがんだけを集中的に照射できる。

重粒子線治療が適応されるのは、遠隔転移やリンパ節転移のない限局がんか局所進行がんだが、野村さんの場合は治療の対象ではなかったということなのだろう。

前立腺がんにおける重粒子線治療の効果については、今月(2021年9月)号の「泌尿器がん相談」で都立駒込病院腎泌尿器外科部長の古賀文隆さんが回答されているように、一般的に用いられている強度変調放射線治療(IMRT)と比較して治療成績で勝るというデータはないとのことだ。

放射線で治療をした場合、再発したときには手術は出来ず、ホルモン療法を選択するしかない。ホルモン療法は男性の健康維持に重要な男性ホルモンを除去してしまうため、健康度低下のリスクを伴うことになる。また通常の放射線治療の場合、毎日2カ月近く病院に通わなくてはならないという煩わしさもある。

手術の場合は、その後局所再発したとしても摘出した前立腺周辺に放射線を照射することで、完治が期待できるというメリットがある。ダヴィンチ手術(ロボット支援下手術)であれば、体への負担も少なく、術後合併症のリスクも低い。

野村さんは、何より「通常2週間程度の入院ですが、希望すれば術後5日ぐらいで退院できますよ」と言われ、ダヴィンチ手術を選んだ。

「仕事のこともあるし、長く入院したくなかったから」と野村さん。

しかし、入院は予定の7日ではなく12日に及んだ。術後しばらくは尿道にカテーテルを挿入していなくてはならず、早く退院してもその作業は自分で行う必要がある。そんな面倒くさいことは嫌だと、入院日数を延ばした。

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