2年前に腎がんの開腹手術を受けていたお笑いコンビ「はんにゃ」の川島章良さん(34歳) がん、結婚、娘の誕生、すべてが同じタイミングだった

取材・文●菊池亜希子
撮影●「がんサポート」編集部
発行:2016年12月
更新:2016年12月

  

かわしま あきよし
1982年東京都出身。明海大学不動産学部卒業後、NSCに入学。2005年、金田哲さんとお笑いコンビ「はんにゃ」を結成、09年「ズクダンズンブングンゲーム」で一大ブームを巻き起こした。2014年に腎がん発覚、同時期に結婚。現在は1女の父親でもあり、「離乳食インストラクター1級」、「幼児食インストラクター」、「おひるねアート講師」、「食育アドバイザー」、「ベビーサインパパアドバイザー講師」、「だしソムリエ1級」の資格を持つ

2009年「ズクダンズンブングンゲーム」で大ブレイクし、その年の好きなお笑い芸人ランキングで1位を獲得した「はんにゃ」。芸人として活動を続ける一方で、今年(2016年)4月、川島さんは2014年に腎がんが発覚し、手術を受けていたことを公表した。がん、結婚、娘の誕生……つらいことも幸せなことも一杯詰まった2年間を経て、今思うこととは――。

とんでもないプロポーズ

2009年「ズクダンズンブングンゲーム」で大ブレイクしたお笑いコンビ「はんにゃ」。「病気が分かってからも、相方(金田哲さん)は普段通り接してくれて……、変に気を遣われても嫌なので、それがかえって良かったです」(川島さん)

「1度、体をちゃんと見ておこうかな」

妻(当時は交際中)に子どもを授かったのを機にそう思った川島さんは、2014年10月、健康診断を受けた。

「腹が出ているから肥満かな」くらいの軽い気持ちだったという。胃カメラ、大腸内視鏡、そして、お腹周りが気になっていたので、念のために腹部CTもオプションで付けた。当日、CT画像を見た医師に「日を改めてもう1度来てください」と言われ、後日、造影剤を使って再度CT検査を受けた。結果がわかったのが11月。これが、とんでもないタイミングだった。

まだちゃんとプロポーズしていなかった川島さんは、サプライズでしようと思い、箱根・強羅温泉の旅館を予約、2人で出かけた。彼女が温泉に入っている間に、プレゼントを襖の向こうに隠し、サプライズに備えた。「指輪はいらない」という彼女の希望もあって、中身はバッグだったという。準備完了。彼女が喜んでバッグを開けると、そこには昨晩したためたプロポーズの手紙が仕込んである。喜ぶ顔を想像しながら待っていると、やおら携帯が鳴った。相手は健康診断を受けた病院の医師だった。

「ご説明したいことがあるので、両親とマネージャーさんも同席でご来院ください」

「いやいや、気になるから、今言ってください」

「早期ですが……腎臓にがんがあるようです」

この時点で、医師の見解は「99%悪性腫瘍で間違いないと思います」というものだった。

「今? プロポーズしようとしている、このタイミングに、なぜ?」

同時に、「俺が、がん? 腎臓のがんって何だ?」

即、スマートフォンに手が伸びた。

「検索したら、出てくる、出てくる。腎臓はリンパ節に転移しやすいとか、若いときのがんは進行が速いとか。当時俺は32歳。終わった……と思いました」

ここで人生は終了なのか。この32年間は何だったんだ? 芸人をやってきて、ようやく結婚しようと思う人に出会って、子どもも産まれることになった。幸せな道を歩み出そうとしている今、ここでいきなり終わりなのか……。

そんな思いが頭の中を駆け巡る中、温泉から彼女が戻ってきた。なすすべもなく、医師から言われたことを、そのまま彼女に伝えたという。

「早期なんでしょ。大丈夫よ。私も頑張って赤ちゃんを産むから、一緒に頑張ろう」

彼女が静かに発したその言葉に、川島さんはどれほど救われたことだろう。

直後、当初予定していたサプライズプロポーズをしたのだが、こちらは散々だったようだ。

「せっかく強羅まで来たんだし、と思って、予定通り襖を開けてもらって、彼女がバッグを見つけて、中の手紙に気付いて喜んでくれた……のではなく、急にベッドにうつ伏せになって泣き出したんです。『想像と違うー!』と言って。そりゃあ、がんと告白された直後に『喜んでくれ』ってほうが無茶ですよね。プロポーズは日を改めればよかった(笑)」

「奇跡的に見つかった」早期がん

腎臓は血液を濾過(ろか)して尿を作り出す場所。その中でも、尿を作っている部分を「腎実質(じんじっしつ)」、できた尿を溜めている部分を「腎盂(じんう)」と呼ぶ。腎臓にできる腫瘍には、腎実質にできる「腎細胞がん」と、腎盂にできる「腎盂がん」、「良性腫瘍」の3種類があり、「腎細胞がん」が全体の約8割を占めて最も多く、一般に「腎がん」と言うと、「腎細胞がん」を指すことが多い。川島さんもこの「腎細胞がん」というタイプで、ステージ(病期)Ⅰ(I)の早期発見だった。

かつては血尿、腹痛、腹部腫瘤(ふくぶしゅりゅう)といった症状が出てから発見されることが多かった腎がんだが、健康診断や人間ドックが普及してきた昨今、川島さんのように腎がんの7~8割は症状がない段階で発見されるようになった。

ステージⅠ(I)の中でも、「奇跡的に見つかった」とまで言われた川島さんの腎がんは、2cm足らずの大きさだった。2015年1月の正月休みに、開腹手術で右腎臓の上3分の1を部分切除した。

「全摘ではなく、がんのある部分だけを切除して腎臓を残す部分切除を勧められました。また、手術に際しても、がん細胞は取り出すときに他の部位に触れたらそこに残ってしまうらしく、それを避けるためにも、開腹手術を勧められました。腹腔鏡下手術でもできると聞いたので、セカンドオピニオンも受けましたが、見解は同じ。さらに、安全にがん細胞を取り出すために、肋骨を3本切除して、手術に臨みました。術後も経過は順調で、今では切除したほうの腎臓も100%機能しています」

正月休みに手術をし、1月には仕事に復帰したという川島さん。腹部を10cm以上切開し、肋骨を3本切除、片側腎臓の3分の1を摘出する部分切除術を受けたが、手術翌日から歩く練習を始め、1週間後には退院したという。

「病院が厳しくて、とにかく歩け、と。腹の筋肉を切ると、まず起き上がるのが至難の業。帝王切開した妊婦さんの気持ちがわかりました。起き上がれなくて、背筋を伸ばせない。だから、早く動かすように訓練するのが大事らしいんです。つらかったけれど、でもね、入院中も嫁が毎日、手作りの熱々の弁当を持ってきてくれたんですよ。これが嬉しくて」

思えば、「それまで体のことなど考えたこともなかった」川島さんが、子どもが産まれることになって健康診断を受けに行き、早期のがんが見つかったのだ。

「子どもが見つけてくれたってことですよね」

子どもを授かっていなければ、あのとき健康診断を受けてはいなかった、と振り返る。数年後に症状が出たときには手遅れだっただろう、と。

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