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患者のためのがんの薬事典

ゴナックス(一般名:デガレリクス)
速やかに効果が現れる前立腺がんのホルモン療法薬

取材・文 ●柄川昭彦
発行:2013年10月
更新:2014年1月

  

前立腺がんのホルモン療法では、男性ホルモンの1種であるテストステロンの分泌を抑える薬が使われます。ゴナックスは、従来使われていたホルモン療法薬とは異なる作用機序をもっています。そのため、使い始めの早期から速やかに効果を発揮するのが特徴です。転移・進行性前立腺がんの治療に適しているとして、多くの患者さんに使われるようになっています。


ゴナックス(一般名デガレリクス)

テストステロンの分泌を抑えてがんの増殖を防ぐ

■図1 ホルモン薬(抗GnRH薬)の作用下垂体にある性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)受容体に働きかけて、下垂体でホルモンが作られるのを抑制する。それにより、精巣から男性ホルモンであるテストステロンが作られなくなる

前立腺がんは、男性ホルモンの1種であるテストステロンを取り込むことで、増殖していくがんです。そのため、前立腺がんにはホルモン療法が有効です。なぜなら、ホルモン療法によってテストステロンが分泌されるのを抑えることで、がんの増殖を抑えられるからです。

これまでにも、テストステロンの分泌を抑える薬が治療に使われてきましたが、2012年に前立腺がんの新しいホルモン療法薬として登場したのが、ゴナックスです。ゴナックスの作用について、まず、テストステロンがどのようなメカニズムで分泌されるのかから説明しましょう。

脳の視床下部という部位から、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)というホルモンが分泌されます。脳の下垂体が性腺刺激ホルモン放出ホルモンの刺激を受けると、そこから黄体形成ホルモン(LH)が放出されます。この黄体形成ホルモンの刺激によって、精巣がテストステロンを作り始めるのです。

ゴナックスは、下垂体にある性腺刺激ホルモン放出ホルモン受容体に、ぴたりと結合する性質をもっています。そのため性腺刺激ホルモン放出ホルモンが結合できなくなり、黄体形成ホルモンが放出されないので、精巣でテストステロンが作られなくなるのです(図1)。

ゴナックス=一般名デガレリクス

従来の薬とは働きが異なる

以前から使われていた薬は、ゴナックスとは反対に下垂体にある性腺刺激ホルモン放出ホルモン受容体を刺激し続けることで、最終的に黄体形成ホルモンの放出を抑える作用を利用したものでした。つまり、この薬を使うと、投与直後は黄体形成ホルモンの放出量が高まりますが、その後、性腺刺激ホルモン放出ホルモン受容体の数が減り始めるのです。それによって、最終的には黄体形成ホルモンの放出が抑えられ、精巣でのテストステロンの産生が抑えられます。

したがって、従来の薬では、治療の開始直後に、一時的にテストステロンの分泌が盛んになってしまいます。それにより症状が悪化(骨痛、尿閉など)する可能性があることが、欠点とされていました。

その点、ゴナックスは、投与開始直後から黄体形成ホルモンの放出を抑えるため、一時的なテストステロン値の上昇を招くことなく、速やかに効果を発揮します。これが、ゴナックスの優れている点といえます。

臨床試験でも効果が確認された

■図2 テストステロン値の比較ゴナックスは投与を開始した早期にテストステロン値を下げる

海外では従来から使われていた薬の1つであるリュープリンとの比較試験が行われています。

治療開始後の血液中のテストステロン値の変化を調べると、ゴナックス群では速やかに低下し、3日目には去勢レベルといわれる値まで下がっていました。一方、リュープリン群では、テストステロンの値が一時的に急上昇してから下がり始めます。そのため、ゴナックス群のレベルに達するのに、4週間ほどかかりました(図2)。

また、再燃への影響について、治療開始時の前立腺特異抗原(PSA)値が20ng/ml以上といった、高リスクとされる前立腺がん患者での比較でも、ゴナックス群のほうが再燃しにくいことが明らかになっています(図3)。

こうした結果から、転移がある前立腺がんに対しては、ゴナックスによる治療が適していると考えられます。

■図3 前立腺特異抗原(PSA)無再燃率の比較

すでに症状が現れているような場合、従来の薬では、テストステロンが一時的に増えるために状態が悪化する危険性が高いからです。また、PSA値が高い、進行した前立腺がんに対しても、がんの進行を従来の薬より抑えられることから、有効であると考えられます。

リュープリン=一般名リュープロレリン 前立腺特異抗原(PSA)=前立腺から分泌される糖タンパク。前立腺がんの発症や再燃によってこの分泌量が増えることが多い

基本的な副作用は従来の薬と同じ

ホルモン療法でテストステロンの分泌を抑えた場合、ほてり、顔面紅潮、性機能障害、骨粗鬆症などの副作用が現れます。これらに関しては、従来の薬も、ゴナックスもほぼ同じです。

ゴナックスに特徴的に見られる副作用としては、注射部位反応があります。注射した部位に、痛み、紅斑、しこり、熱感、腫れなどが現れることをいいます。

この薬は、1カ月に1回、腹部に皮下注射します。注射部位反応は、注射をしてから2週間以内に現れます。ただ、1カ月以内には消え、重症化することはほとんどありません。

3カ月製剤も開発が進んでいる

ゴナックスは1回注射すると、1カ月間にわたって効果が持続するタイプの薬で、患者さんは月に1回の通院が必要です。これに対し、従来から使われているホルモン療法薬には、1カ月製剤と3カ月製剤があり、3カ月製剤を選べば、患者さんは3カ月に1回の通院ですみます。

この点に関して、ゴナックスは一歩遅れをとっているといえるかもしれません。しかし、現在、ゴナックスも3カ月製剤を開発中です。現在は、主に進行した前立腺がんの治療に使われているゴナックスですが、3カ月製剤が登場すれば、将来的にはより広い範囲の患者さんに使われるようになると考えられます。

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