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患者のためのがんの薬事典

ジェムザール(一般名:ゲムシタビン)
治療対象に再発・難治性の悪性リンパ腫を追加

取材・文 ●柄川昭彦
発行:2013年5月
更新:2014年1月

  

肺がん、膵がん、乳がん、卵巣がんなど、6種類のがんの治療薬として、多くの患者さんに使われてきたジェムザール。新たに悪性リンパ腫の治療薬としても承認された。治療対象となるのは、再発性・難治性という治療が難しいもので、従来使われてきた併用療法に比べてもジェムザールを使用した併用療法は、効果が劣らず副作用が軽いことが最近、海外における比較臨床試験において示されたという。

7種類のがんの治療薬として使われる

ジェムザールが、がんの治療薬として日本で最初に認可されたのは、1999年のことです。このときの治療対象は、非小細胞肺がんでした。その後、2001年に膵がんの治療薬として承認され、医学界で注目を集めることになります。

当時、膵がんに有効な抗がん薬はなく、ジェムザールによって初めて生存期間が延びることが海外における比較臨床試験において示されたからです。10年以上が経過した現在でも、ジェムザールは、膵がんのキードラッグとされています。

その後、胆道がん、尿路上皮がん、進行再発乳がん、再発卵巣がんの治療薬としても承認され、治療対象を広げてきました。そして、今年になり7番目の治療対象として、再発性・難治性の悪性リンパ腫が加わることになったのです。

ジェムザールの大きな特徴は、副作用が比較的おだやかだということです。重篤な、入院を必要とするような副作用が少なかったことが臨床試験で示されています。

欧米では悪性リンパ腫の治療にも使われていた

ジェムザールが悪性リンパ腫の治療薬として承認されたのは、日本が初めてでした。しかし、日本が世界をリードしてきたのかというと、そうではありません。実は欧米では、ジェムザールが悪性リンパ腫の治療薬として承認されないまま、治療に使われてきた歴史があるのです。

悪性リンパ腫に対する効果を調べる臨床試験も行われていますし、欧米のガイドラインでは、ジェムザールを使った治療法が推奨されているのです。

今年、日本で承認されたのも、欧米の臨床試験データから、日本でほかのがん種に用いられるのと同様の用法用量で、悪性リンパ腫に対する有効性と安全性が示されていたからです。

再発・難治性の悪性リンパ腫を治療

今回、ジェムザールが承認された「再発または難治性の悪性リンパ腫」について説明しておきましょう。

悪性リンパ腫に対しては、R-CHOP療法などの多剤併用化学療法が標準治療です。特にR-CHOP療法が登場してからは、悪性リンパ腫の代表的なタイプである、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の治癒率が格段に改善されました。

この化学治療が効いて、いったんは寛解(顕微鏡で腫瘍細胞が見えなくなる状態)に入ったものの、再び腫瘍細胞が増えてくるのが「再発」です。また、化学治療を行ったけれど、十分な効果が現れず、寛解に入らないのが「難治性」です。これらの再発・難治例への治療が、悪性リンパ腫の大きな課題として残っていたのです。

再発や難治性の悪性リンパ腫に対する治療法としては、次のような多剤併用療法が挙げられます。

◆ICE療法……イホマイド+パラプラチン+エトポシドの併用

◆CHASE療法…… エンドキサン+キロサイド大量投与+デキサメタゾン+エトポシドの併用

◆DHAP療法……デキサメタゾン+キロサイド大量投与+シスプラチンの併用。

◆ESHAP療法……エトポシド+プレドニン+キロサイド大量投与+シスプラチンの併用。これらに対し、新しく登場したジェムザールは、次のような併用療法が行われます。

◆GDP療法……ジェムザール+デキサメタゾン+シスプラチンの併用。

R-CHOP療法=リツキサン(一般名リツキシマブ)、エンドキサン(一般名シクロホスファミド)、アドリアシン(一般名ドキソルビシン)、オンコビン(一般名ビンクリスチン)、プレドニン(一般名プレドニゾロン)の併用療法
イホマイド=一般名イホスファミド パラプラチン=一般名カルボプラチン エトポシド=商品名ベプシド/ラステッド エンドキサン=一般名シクロホスファミド キロサイド=一般名シタラビン デキサメタゾン=ステロイド系抗炎症薬 シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ プレドニン=一般名プレドニゾロン

効果は劣らず副作用は軽い

臨床試験では、悪性リンパ腫の再発または難治性の患者さんを対象に、DHAP療法とGDP療法を比較しています(表1)。

その結果、ジェムザールを含むGDP療法は、従来の化学療法であるDHAP療法に比べ、効果の点で劣っていないことが示されました治療の選択肢が1つ増えたことになります。

副作用に関しては、GDP療法のほうが軽いことが明らかになっています。特に重い血液毒性が現れないのが、この併用療法の特徴でした。副作用が軽いことは、高齢の患者さんにも使いやすいことにつながります。

また、GDP療法には、寛解に持ち込む力があり、自家移植を目指す患者さんにとっても、有効な治療法ですが、病勢のコントロールを目標に治療することもできます。ジェムザールの単独療法で、腫瘍細胞が増殖するのを抑えていくという治療も可能なのです。

併用療法と単独療法では、図2に示すように、投与スケジュールが違ってきます。

これまで多くの患者さんに使われてきたため、ジェムザールはどのような副作用が出るのかがよくわかっている抗がん薬です。悪性リンパ腫の治療に用いた場合も、特別な副作用はありません。また、日本人と欧米人で、副作用に大きな差がないこともわかっています。

このように、ジェムザールは、その副作用の少なさから使いやすく、併用化学療法でこれまでの治療法に劣らないことから、再発・難治性悪性リンパ腫の治療選択肢の重要な1つとなる可能性があります。

■表1 GDP療法の効果(DHAP療法と比較した第III相試験)(単位%)

奏効率 無イベント
4年生存率
4年生
存率
移植
可能例
グレード
3、4の
有害事象
発熱性
好中球
減少症
血小板
輸血
入院が
必要な
有害事象
GDP療法 45.2 25.6 39.0 51.8 47.0 9.0 18.0 18.0
DHAP療法 44.0 26.1 39.1 49.3 61.0 23.0 32.0 30.0

(Crump M.ほか、米国血液学会、2012)

■図2 投与スケジュール

奏効率=がんの大きさに50%以上の縮小がみられた割合
無イベント生存率=再発や病状の悪化、合併症などがなく、生存している期間

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