編集部の本棚 2016/4Q
重粒子線治療・陽子線治療完全ガイドブック
研友企画出版 出版企画部編著 法研 2,000円(税別)
切らずに治す治療として注目されている放射線治療。その中でも重粒子線や陽子線による治療を行うことで、手術と比べてどれくらい効果が期待できるのか、気になる人も多いだろう。
本書では、重粒子線、陽子線について、専門医である量子科学技術研究開発機構(旧:放射線医学総合研究所)の辻比呂志氏、筑波大学附属病院副病院長の櫻井英幸氏の協力を得て制作。治療法から、どこに行けば重粒子線や陽子線による治療を受けられるのか、国内の施設情報(建設予定を含む)についてもまとめられている。
注目したいのは、重粒子線、陽子線ともに有効ながん種について、画像やイラストなどを用いながら部位別に紹介している点だ。がん種によっては化学療法を併用した集学的治療を必要とする場合もあり、そういった情報を含めて掲載されている。
「できれば手術を避けたい」「治療法を決断できずにいる」――。こういった状況の患者さんにはぜひ手にとってもらいたい1冊。治療法決定の一助となることを願う。(白)
三六〇〇日の奇跡「がん」と闘う舞姫
吉野ゆりえ著 発行:星槎大学出版会 発売:かまくら春秋社 1,800円(税別)
2005年、著者・吉野ゆりえさんは希少がん「肉腫(サルコーマ)」と診断された。本書は、今年(2016年)7月末に亡くなるまでの、3600日に及ぶ闘病記録である。
プロの競技ダンサーとして活躍し、ダンス指導者としても有名な吉野さんを襲ったがんは「後腹膜平滑筋肉腫」。希少がんで患者数が少ないが故に治療法が確立しておらず、専門医もほとんどいない現状を痛感し、吉野さん自ら「集約化」が必要と訴え、09年9月には国立がん研究センター中央病院に日本初の「肉腫(サルコーマ)診療グループ」を発足。治療体制の整備に尽力した様子が綴られている。
他にも本書には、現在のがん治療に対する問題提起も記されている。抗がん薬治療の副作用で心不全を起こしている吉野さんに、がん専門病院では降圧薬や利尿薬しか処方せず、結局吉野さんは救急救命室のある病院に運ばれ、緊急入院となってしまう。「がん」専門病院だからこそ、抗がん薬の副作用として起こり得る、循環器に関する対策が必要ではないかと説いている。
自分の体験を未来に伝え活かすことが使命だと感じたという吉野さん。同じ病で苦しむ人、そして医療関係者にも、ぜひ手にとってもらいたい1冊となっている。(白)
ガンカンジャ 1~4
フツー著 KADOKAWA/アスキー・メディアワークス 1,000円(税別)
26歳の若さで胃がんを患い、末期と診断された「僕」。突然訪れた息子の病に戸惑う家族、恋人……。同書は、患者本人の苦しみ、戸惑い、患者を取り巻く周囲の葛藤をリアルに、そしてとても繊細に描いたがん闘病漫画である。
著者は、韓国人であるフツー氏。大学時代から、がん患者を支援する団体の事務局長を務め、自身の父親が8年間のがんとの闘病の末に亡くなったのを機に、勤めていた会社を退職。その後、人生初の漫画『ガンカンジャ』の執筆を開始し、2014年韓国で出版。反響は大きく、この度日本でも出版することになったという。
抗がん薬治療や放射線治療ができないほど体が弱ってしまった「僕」。痛み止めの薬を使うことによって、眠っている時間が多くなり、「僕」は森の世界に迷い込む。そこでは不思議な生き物たちが、「僕」を待っていた――。
がん患者の揺れ動く心を患者の目線で繊細に描いた同書。残されるであろう家族の偽らざる心情も丁寧に描いている。所々に書かれたフレーズが、胸に突き刺さる1冊。読んだあと、何だか胸がいっぱいになる。(白)