編集部の本棚 2018/3Q
マンガでわかるゲノム医学 ゲノムって何?を知って健康と医療に役立てる!
水島-菅野純子著 サキマイコ作画 発行:羊土社 2,200円(税別)
「ゲノムって何?を知って健康と医療に役立てる!」とサブタイトルにあるように、どうも最新の医療の動向を知るには、「ゲノム」について理解する必要がありそうだ。
身近なところでは、肺がんにおけるEGFR、ALK、大腸がんにおけるRAS、乳がんにおけるHER2など、今ではがん治療に欠かせないのが、がん遺伝子検査だ。先進医療B対象の網羅的がん遺伝子検査「マルチプレックス遺伝子パネル検査」の場合、対象遺伝子数は110以上で、がん種も問わない。
また、高い奏効率と高額な治療費で話題になった「CAR-T」療法は、患者自身のT細胞の遺伝子操作を行い、がん細胞を攻撃する治療法だ。
ゲノムは医療ばかりではない。ゲノム編集で、真鯛の品種改良(体重の増加)に成功したとのニュースが流れた。大豆でよく知られる遺伝子組み替え作物など、今では身近な食品に数多く使われている。また、植物由来の人工肉も作られていて、将来人工肉が取って代わることも夢ではないそうだ。
本書は、一般の人にかりやすくゲノムについて知ってもらおうと、「ゲノムって何だろう」から始まり、「遺伝子検査」「がんとゲノム」など7章立ての構成になっている。章立ての最初はマンガで、そのあとで、「もっと詳しく」文章で解説している。「ゲノっち」というかわいいキャラクターを登場させてマンガで大まかに、そのあと解説を読むことで、内容がより理解しやすい。遺伝子について生物の教科書で習った程度の知識しか持ち合わせていなくてもわかる。これからの世界はますますゲノムが鍵をにぎっている。(礼)
ちびといつまでも ママの乳がんとパパのお弁当と桜の季節。
柏原昇店(ママのダンナ)著 濱岡剛(ママの主治医)監修 発行:(株)G.B. 1,200円(税別)
イラストレーターである著者は3人の子供のパパである。3年前、胸のしこりに気づいたママが乳がんステージⅢC期、タイプはルミナルB HER2陰性と診断された。平和だった一家はがん治療への不安や育児、パパの仕事など次々に問題が降りかかってくる。右往左往しながらなんとか家族全員で力を合わせ乗り越えていく。その課程を4コマ漫画という手法を用いてユーモラスに描いている。
著者はいう。「この難しい題材で漫画を描くことに当初悩みましたが、我が家が闘病中に学んだことや、経験が少しでも皆さんのお役に立てればと筆を執りました」
また一家を描くのに「子供って本能的に動物みたいで、我が子がだんだん子グマに見えてきた」と思ったパパだが、ママに「パパもそう見えるけど」と言われ、「白クマ4匹と人間1人のキャラクターが生まれました」とも書いている。
このキャラクターの設定が見事に成功し、ともすれば深刻になりがちながん闘病記にユーモアをもたせた作品に仕上がっている。
さらに折々に乳がん治療の流れ、高額療養費制度などの解説や、治療に掛かった費用の総額も記載されていて痒いところに手が届く編集内容は見事である。(良)
大事な人が、がん宣告を受けました 患者家族と医療の交差点
熊谷有代著 発行:東銀座出版社 1,204円(税別)
大事な人を失った時、「自分はもっと何かできたのではないか」と自分を苛(さいな)む人は多くいる。この著者もそうである。
本書は著者の夫が2015年4月に膵がんの遠隔転移による脳腫瘍が発覚し、翌年1月に亡くなるまでの闘病約7カ月を綴った記録である。
「夫の真の苦悩を理解するため」にも闘病の記録を纏(まとめ)ようと心に決めるまでには1年の歳月を要した。
夫は脳腫瘍の切除手術を受け、膵がんと肝転移の治療は抗がん薬の治療となった。
薬の副作用で苦しむ夫の姿を見るにつけ、保健師として長年多くの人の体に向き合ってきた経験から、自身がよいと思うことをやっていこうと思うようになった。
そのきっかけとなったのは、友人から薦められた2冊の本に出会ったことに起因する。
その内容は著者と夫にとって納得のいくものであったため、実践しようと決めたのだった。
抗がん薬を止めその内容を模索してきた最中の2016年1月5日夜、入浴中に突然夫は亡くなってしまった。
著者はいう。「結果的には7カ月という短い期間なってしまったけど、夫と闘病をともにする中で感じてきたことは『がんが自然に治る生き方』と同じだった。もう少し早くこういった本に出会えていたらと今さらのように思う」
本書は著者自身の自省の書であるとともに、がん治療に携わる医療関係者への患者・家族からの問題提起の書でもある。(良)