がんサバイバーが専門家に聞いてきました!
――美容ジャーナリスト山崎多賀子の「キレイ塾」

がんになっても快適に暮らすヒント Vol.9 スピリチュアルケアからの「傾聴」

山崎多賀子●美容ジャーナリスト
発行:2017年4月
更新:2017年4月

  

やまざき たかこ 美容ジャーナリスト。2005年に乳がんが発覚。聖路加国際病院で毎月メイクセミナーの講師を務めるほか、がん治療中のメイクレッスンや外見サポートの重要性を各地で講演。女性の乳房の健康を応援する会「マンマチアー委員会」で毎月第3水曜日に銀座でセミナーを開催(予約不要、無料)

がんでも、そうでなくても、いつか必ず自分や自分の大切な人に訪れる「死」。前回は、死への怖れとどう向き合っていけばいいのか、「死生学」の第一人者である伊藤高章さんに聞きました。引き続き今回は、命の限りを身近に感じている方への「傾聴」について聞きます。


山崎 前回、スピリチュアルケアの観点から、「死を受け入れる」ことについてうかがいました。「死を受け入れたほうがいい」というのは、周りの都合であって、そんなことよりも本人が自由に考え、感じる時間をもつことが大切、という話にハッとされられました。ただ伊藤さんは、「残された時間を1人で過ごすか、しっかりと話を聴いてくれる人がいるかの違いは大きいと思う」とも、おっしゃっていましたね。

伊藤高章さん 上智大学大学院実践宗教学研究科死生学専攻教授。同大学グリーフケア研究所副所長。国際基督教大学(ICU)教養学部卒。同大学大学院比較文化研究科修了。聖公会太平洋神学校修了(Berkeley, USA)。日本スピリチュアルケア学会理事(資格制度運営委員長)。米国スタンフォード大学病院客員チャプレンスーパーヴァイザー(2002~03)。研究はもとより、死生学、グリーフケア、スピリチュアルケアの人材育成にも力を注ぐ。がん患者の心のケアの講演は、がん関連学会で医療者や患者から大好評を博している

伊藤 死を身近に感じている方にとって、いま考えていること、感じていることを自由に語り受けとめてもらい、「いい時間を過ごしているな」と実感する時間を味わっていただくのが、とても大切だと思っています。情報を得るためにお話をうかがうのではなく、話をしている瞬間そのものが豊かであることが、重要なことだと思います。

山崎 それは、家族にかかわらず、ですね。

伊藤 はい。例えば医療従事者とのかかわりも同じです。いい治療も大切ですが、診察や病室での会話で、この人と話ができてよかった、と思えること。例えば看護師さんとの会話で、「優しく接してもらってよかった」、「不安なときに、心配して側にいてくれてうれしかった」と感じるような、その瞬間、瞬間のケアが大事な気がします。

山崎 ケアとはこの場合、「癒し」でしょうか。だから、人とのつながりや会話に意味があるのですね。

伊藤 死を身近にしたとき、「もう、1人にしてくれ」という人はあまりいない気がします。煩わしいつながりはいらないけれど、自分にとって大切なつながりは、最後までもち続けたいのではないでしょうか。

スピリチュアルケア=自己の存在や生きる意味にかかわるケア。「スピリチュアル」は、魂の、霊的なという意味をもつ

会話の流れのなかで いま大事に思っていることを語り直してもらう

山崎 普段の会話もそうですが、しっかり話を聴くときは、楽しかったことを話題にするといいのですか?

伊藤 皆さんそう考えがちですが、実は楽しい話題かどうかがポイントではありません。大変なことを乗り越えたというのも、大事な経験かもしれません。悲しかったことつらかったことも貴重な経験です。楽しかったことよりも、大事なことのお話を聴かせていただく。

それも、「大事なことをお話ください」と求めるのではなく、会話の流れのなかで、「いやぁ、こんなことがあってねぇ」と大事なお話をしてくださることがあるのです。

山崎 大事なことを聴くことに、どのような良さがあるのでしょう。

伊藤 「聴く」ことは、思い出して語っていただくこと。語り直すこと、今の時点で解釈し直すことなのです。いま大事に思っていることを、もう一度語り直していただく。すると、「嫌な話だったはずが、今から思うと差し引きゼロかな」と思ったり、「あの嫌なことがあったから、今の自分があるんだよ」と、いい話に変わったりもする。語り直すことで、自分の経験を意味づけし直していただくという作業ができます。

山崎 そういえば、私もがんと告知されてから、何度となく人生を振り返っていました。過去の出来事を見つめ直すと、見落としていた気づきが確かにあり、ああ、そうだったのかと妙に腑に落ちたのですが、それと似ているのでしょうか。

伊藤 ケアの焦点は、いま現在のご自分を肯定的に大切に感じていただくことです。そのためには、聴き手が、いまここで語られているその方に関心を向け、お話の内容を大切なこととしてしっかり伺うことなのです。

自分らしい聴き方を見つける 「臨床傾聴士」の養成講座が開講

山崎 ところで伊藤さんは、大事な話の聴き手になる「臨床傾聴士」を育成されていますね(コラム参照)。

伊藤 はい。上智大学グリーフケア研究所のこれまでの人材養成の経験を踏まえ、「グリーフケア人材養成課程」という新たな2年制の講座を4月から開講します。修了すると上智大学グリーフケア研究所「臨床傾聴士」の資格が得られます。臨床傾聴士は、今回のテーマである「死」に限らず、「さまざまな問題で苦しんでいる人のお話を聴くケア」のプロです。前回もお話ししましたが、宗教学がベースとなるスピリチュアルケアでは、その方の歴史や思想、理想、信仰、信念、感情をすべてひっくるめて、お話を伺います。その方の主観的な世界理解に注目しますので、客観的な診断が中心にはなりません。だからこそ、ケアの基本は「傾聴」なのです。

山崎 「傾聴」というと、相手の話を聴き、相手の言葉をそのまま用いて会話をつなげる「オウム返し」の手法によって共感を示すことですか? コツはあるのでしょうか?

伊藤 言葉をオウム返しされることで、鏡と向き合うようにどんどん自己理解を深めていく、という考え方もあります。ただ私たちはそのような考え方をしてはいません。語る方と聴く者のとの人間的な関係性を大切にしています。相手がいて、相手にわかってもらいたいから人は話すので、応答にはインパクトがなければいけない。「え? そうなのですか? あなたのことをもっと聴かせて」と。そして、そこには聴く人の個性が含まれていなければいけない。

山崎 同じ言葉を返すだけならコンピュータでもできますね。

伊藤 聴き手が違えば、その方の人生の違った話が伺えるのではないかなと思っています。

山崎 聴き手の個性によって、異なる過去の出来事にたどり着く。本当にそうでしょうね。講座では、そういった聴き方のテクニックを学ぶのですか?

伊藤 いえ、「臨床傾聴士」養成ではテクニックは一切教えません。最初のオリエンテーションでそう話すと、受講生に文句を言われますが(笑)。良い聴き手になろうとしている人にとって、まず自分の話をしっかりと聴いてもらう経験が欠かせません。人に話を聴いてもらってどんな気持ちになるか、どういう聴き方をされると支えてもらえる気持ちになるか。自分がケアしてもらう経験をしながら、その人らしい聴き方を発見してもらう2年間です。

 

【コラム】「臨床傾聴士」育成プログラム

上智大学グリーフケア研究所では、文部科学省の職業専門職養成講座として、社会経験がある人を対象に、「グリーフケア人材養成課程」(2年制)を開講。所定の単位を修得し、総合審査に合格した修了者に、上智大学グリーフケア研究所が認定する「臨床傾聴士」資格を取得できます。

●ご興味があるかたは 「グリーフケア人材養成講座」 (上智大学グリーフケア研究所ホームページより)

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