肝がんの早期発見のための検査方法とは?

回答者:森安 史典
東京医科大学 内科学第4講座(消化器内科)主任教授
発行:2011年10月
更新:2013年10月

  

78歳の父についての相談です。自覚症状はなかったのですが、19センチの肝がんが判明し、昨年10月、肝臓全体の3分の1にあたる左葉の切除手術を受けました。本人は知らずに、過去にB型肝炎ウイルスに感染していたようです。もともと腎臓も弱っていたため、術後、食事制限を始めました。しかし、2カ月後に再発し、肝動脈塞栓療法で治療。今年3月に再々発してラジオ波焼灼療法と肝動脈塞栓療法を行いました。現在、再発はしていません。軽い糖尿病、痛風、高血圧の持病があります。お酒が好きで、50歳半ばまで愛煙家。食欲は旺盛で少し肥満気味、主治医からは体重を落とすように指導を受けています。質問は次の3点です。

①定期健康診断の血液検査ではGOT、GPT値に異常は認められませんでした。肝がんの早期発見には、どんな検査方法が有効だったのでしょうか。
②今後再発した場合には、どのような治療法が考えられますか。
③食事についてです。お酒は全くダメでしょうか。ノンアルコールビールを愛飲していますが、炭酸も避けたほうがいいですか。食べてはいけない食材はありますか。トウガラシやわさびといった刺激物は避けるべきでしょうか。

(岡山県 女性 45歳)

A すべての人に1度肝炎ウイルス検査を受けてほしい

19センチのがんとは、かなり大きいですね。しかし、肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれており、がんに罹患しても自覚症状が出にくい臓器です。また、肝がんができた場合、慢性B型肝炎(以下、B型肝炎)のほうが、慢性C型肝炎(以下、C型肝炎)よりも、その発見が遅れやすいといえます。

肝がんには、ほかのがんとは異なる「多段階発がん」と「多中心性発がん」という特徴があります。

多段階発がんとは、段階を踏んでがんの悪性度が増すということです。肝がんの場合、1センチまでは非常におとなしい、2センチまでは比較的おとなしい、2~4センチは中くらいの悪性度、4センチ以上は強い悪性度と、大きくなるにつれて悪性度が強くなります。大きさが3センチを超えると、大きくなる速度も速くなります。

一方、多中心性発がんとは、がんがほかの場所に転移するのではなく、肝臓のなかの別の場所に新しいがんが次々に発生する性質を指します。肝がんは正常な肝臓にはできません。決まって慢性肝炎や肝硬変の段階を経て肝がんになります。つまり、慢性肝炎や肝硬変になると、肝臓全体が、がんが発生しやすい状態になり、最初のがんが1個できると雨後のたけのこのように次々にできるのです。

①検査方法についてです。

B型肝炎ウイルスを持つ方の多くは、生まれて母親の産道を通るときか、授乳期に母親から血液感染しています。お父様の場合もおそらく1歳までに感染し、その後、ウイルス増殖を抑えるe抗体ができて、肝炎が沈静化してしまったと考えられます。そうすると、GOT、GPTは正常値を示します。ただ、血液検査で肝炎ウイルスを持っているかどうかを調べることはできます。

この肝炎ウイルス検査は、全ての方に受けていただきたいですね。簡単な血液検査で1度調べればわかります。人間ドックや健康診断のときにオプションでつけたり、風邪などで病院にかかったついでに調べることもできます。とくに、血縁に肝炎の患者さんがいる方はぜひ調べてください。B型肝炎ウイルスは日本人全体の1パーセント=約120万人、C型肝炎ウイルスは2パーセント=約240万人が持っているといわれています。

肝がんを発症しやすいハイリスクの方は、B型・C型肝炎、肝硬変の方です。1度がんができると、さらに発がんのリスクは高くなります。1個がんが見つかった方のうち、3割の方に翌年2個目のがんが見つかり、5年間経過をみると、ほとんどの方が再発します。

ハイリスクの方は、定期的な検査が必須です。AFPかPIVKA-2という腫瘍マーカーを3カ月に1度、超音波検査を半年に1度、CT検査を1年に1度行います。現在は、1.5センチ程度の小さいがんでも発見できるEOB-MRIという検査法もあります。

②今後の治療法についてです。

(1)肝動脈塞栓療法とラジオ波焼灼療法を組み合わせて繰り返す、(2)分子標的薬ネクサバールによる治療、(3)免疫療法(活性化リンパ球療法、樹状細胞ワクチン療法、ペプチドワクチン療法など)、(4)HIFU(強力集束超音波治療)(「Q:手術はできれば受けたくない。HIFUは可能か?」を参照)などが考えられます。

ネクサバールは手術、肝動脈塞栓療法、ラジオ波焼灼療法ができない方が保険適用となる薬です。しかし、有効率が30パーセントと低く、手足症候群という強い副作用もよく出ます。

また、免疫療法はそれだけに頼ってはいけません。手術、肝動脈塞栓療法、ラジオ波焼灼療法でできるだけがんをたたいた上で補助的に行う治療法と考えてください。

③食事についてです。

肝硬変になった肝臓には、お酒はやはりよい影響は与えません。飲まないほうがよいでしょう。しかし、あとは人生観の問題です。仮にあと5年生きられればいいと考えるなら、お酒を飲んだからといって寿命が3年になることはありません。

しかし、当然酒量は控えないといけません。血液検査でγ-GTPが正常範囲内であること、日本酒なら1回1合以内で週3回まで、つまり1日おきに休肝日をつくることが守れるなら、お酒を楽しむのもよいでしょう。しかし、なまじ制限してつらい思いをするくらいなら、いっそ断ってしまったほうが楽だという方もいます。なお、アルコール度数と量が重要なので、炭酸かどうかは関係ありません。

食べてはいけない食材はありません。いくつか持病をお持ちのようですが、肝臓だけでいえば、カロリーは控え目に、肉・魚・野菜・穀物をバランスよく、3回の食事を規則正しく食べることが大切です。肝臓の働きが悪いと代謝が悪いので、間食・夜食は控えてください。香辛料の制限はありませんが、肝硬変の方が塩分を取りすぎるとむくみや腹水が出やすいので、塩分は1日8グラム以下に制限してください。

GOT、GPT=細胞内の酵素で、この血中濃度を測定することで、肝障害の有無や程度を調べる。近年、GOTはAST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)、GPTはALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)という名称に変更されつつある
AFP=アルファフェトプロテイン PIVKA-2=異常プロトロンビン 分子標的薬=体内の特定の分子を標的にして狙い撃ちする薬 ネクサバール=一般名ソラフェニブ γ-GTP=胆道系の酵素の1つ

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