手術後、抗がん剤治療を受けていたが再発。治療法は?

回答者:上野 秀樹
国立がん研究センター中央病院 肝胆膵内科医師
発行:2011年2月
更新:2013年11月

  

2009年の12月、父(67歳)がステージ2の膵がんと診断されました。手術後、ジェムザール(一般名ゲムシタビン)による治療を行っていたのですが、腫瘍マーカーが上がり始め、先日、肺に転移していることがわかりました。主治医からはTS-1(一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)による治療を行うといわれています。いろいろインターネットなどで調べていたところ、WT1ペプチドワクチンというものを使った免疫療法などもあると聞きます。この免疫療法とは一体どういった治療法なのでしょうか。効果はあるのでしょうか。

(徳島県 女性 37歳)

A TS-1の治療が一般的。免疫療法はまだ臨床試験段階

ご質問された方のお父様は、膵がんの手術を受けた後に、ジェムザールによる化学療法を受けていらしたのですね。このように、手術の後に抗がん剤などの治療を行うことを補助療法と呼んでいます。

膵がんでは、手術の後にジェムザールによる補助療法を受けると、再発がしにくくなる(たとえ再発するとしても、再発するまでの期間を延ばすことができる)ことが、これまでの研究からわかっているため、ジェムザールによる補助療法が現在広く行われています。

お父様は、手術後の経過が良好であったため、予定通りジェムザールの補助療法を受けていらっしゃったのだと思います。しかし、治療中に腫瘍マーカーが上昇し、残念ながら肺への転移が発見されたわけですね。

ジェムザールを投与している最中に再発が明らかになった経緯を踏まえると、再発した腫瘍はジェムザールに耐性(抵抗性)となっている可能性が高いため、他の治療法への変更を考えたいところです。

ジェムザールが効かなくなった膵がんに対しては、現在まだ確実に効果を有する抗がん剤は見つかっておらず、世界的にも治療方針は定まっていませんが、日本においてはTS-1が、一般臨床の場で広く使用されています。

TS-1は、我が国で開発された経口の抗がん剤であり、未治療の膵がん患者さんであれば2~3割に、ジェムザール治療後の膵がん患者さんであっても1~2割に奏効する(がんが小さくなる)ことが示されています。

すでに膵がんに対する保険も適用されていますので、主治医と同様に、TS-1が現時点では最も一般的な選択肢であろうと私も考えます。

一方、現在、TS-1以外にもさまざまな試みが行われており、今回ご質問があったWT1ペプチドワクチンもその1つです。WT1ペプチドとは、正常な細胞には発現が少なく、膵がんをはじめとするさまざまながんでは過剰に発現していることが知られているタンパク質の一種です。

WT1ペプチドを体の中に投与することにより、WT1ペプチドを攻撃する免疫細胞を活性化させてがんをやっつけようという理論からなる免疫療法が、WT1ペプチドワクチン療法です。

WT1ペプチドワクチン療法は、この治療を受けた脳腫瘍の患者さんでがんの縮小例が報告されるなど、現在期待されているワクチン療法の1つです。

しかし、膵がんをはじめとする多くのがんに対しては、ワクチン療法の効果はまだわかっておらず、WT1ペプチドワクチンも研究段階にある治療です。したがって、WT1ペプチドワクチンを検討する際には、担当医から、施設の倫理審査委員会に承認された「臨床試験」に基づいて適切に行われているかどうかを確認した上で、期待される効果と安全性に関して十分な説明を受けることが大切です。

以上、ジェムザールに抵抗性となった膵がんに対しては、現時点ではTS-1が最も一般的な選択肢だと思いますが、WT1ペプチドワクチンをはじめとする新しい治療の臨床試験を検討する選択肢もあると思います。

主治医や臨床試験の担当医と相談の上、患者さん自身のご希望を第1に考え、今後の方針をお決めになるのが良いと思います。

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