抗がん剤治療などでがんが縮小後、手術することは可能か
膵臓がんと診断されました。明らかな遠隔転移はないが、がんが血管の近くにあるため、手術はできないと主治医に言われました。今後、抗がん剤などの治療を受け、がんが縮小した場合、手術を受けられるようになる可能性はありますか。
(山形県 男性 62歳)
A 可能なこともある。ただ、過大な期待はできない
膵臓がんを完治させる可能性がある治療は現在でも手術だけです。しかし、膵臓がんは早期発見が難しく、進行が早いため、8割近い患者さんは切除が困難な進行がんの状態で発見されます。
切除が困難とされる理由の多くは、肝転移などの遠隔転移です。大腸がんのように、たとえ遠隔転移があっても延命を期待して積極的に病変を取り除くがんもありますが、膵臓がんの場合は、遠隔転移を切除してもすぐに再発してしまうことが経験からわかっているため、遠隔転移例は通常、外科治療の対象となりません。
一方、ご相談者のように、明らかな遠隔転移は認められないものの、膵臓がん自体が進展している(多くは周囲主要動脈への浸潤)ため、切除が困難になる場合もあります。このような病態を局所進行膵臓がんといい、局所進行膵臓がんと診断された場合は、通常は完治が望めないため、延命や症状の緩和を目的に抗がん剤や放射線などによる治療が行われます。
しかし、抗がん剤や放射線治療が奏効してがんが著しく縮小した場合、切除不能の原因となっていた血管への浸潤が軽減または解消し、切除が可能な状態になることが稀にあり、これをダウンステージングと呼んでいます。
現実的には、がんが血管を全周性に取り囲むように進展している場合は、切除可能な状態までがんを縮小させることは難しく、ダウンステージングが期待できるのは「腫瘍が血管に接しているが、もう少し小さくなれば切除可能になる」といった切除・非切除の境界領域にある病変です。
もともと日本の外科医は、海外の外科医よりも積極的に膵臓がんの手術に取り組んでいるため、日本で切除不能と判定された膵臓がんが切除可能な状態までダウンステージングすることは、なかなか難しいのが現状です。また日本では、ダウンステージング後に切除を受けたケースの情報が限られているため、治療成績を明らかにしていくことも今後、必要でしょう。
以上をまとめると、局所進行膵臓がんであれば、抗がん剤などの治療で切除可能になることが稀にあります。しかし、膵臓がんの場合は、進行した状態で無理にがんを切除してもよい結果にならないこともあるため、過大な期待を手術にいだくことはお勧めできません。その時々で最適と思われる治療を、主治医とよく相談しながら選択することが大切です。