ドイツがん患者REPORT 21 「再びルイーゼのために」

文・撮影●小西雄三
発行:2016年7月
更新:2018年10月

  

懲りずに夢を見ながら」ロックギタリストを夢みてドイツに渡った青年が生活に追われるうち大腸がんに‥

6年前の直腸がん手術から2度の転移。
今も抗がん薬治療中のドイツ在住の小西雄三さん。
去年若くして亡くなったルイーゼのために再びライプチヒへ演奏に。

 

 

 

再びライプチヒへ

6月3日は、ルイーゼの命日。ドイツでは命日には家族や親しかった人が墓に参り、花を捧げるのが一般的です。

「パーティが好きだったルイーゼのためにライプチヒに集まって、彼女を偲んで思い出話でもしようよ」と誰かが言い出して、「それなら2年前にサプライズパーティをやった店で」となり、「ついでに、あの時のバンドも呼ぼう」と、話はトントン拍子に進みました。

6月4日、土曜日の朝9時ミュンヘンを出発。渋滞もほとんどなく、運転するバンドのパーカッション担当のカティは車を飛ばすので、午後2時前には宿泊するホテルに到着。今年1月に出産したばかりのボーカルのフランツイーは、旦那さんと赤ちゃんと別の車で来て、ホテルで合流しました。

今回はギターとボーカル担当のデーブも5歳になる孫娘と一緒でした。デーブの娘で孫娘の母親ナディーンを去年がんで亡くしているデーブは、今回のライプチヒ行きはきっと様々な思いがあるでしょう。

どんなときでも、楽しいことを見つけることはできる

僕たちのライブは、午後3時から、3度の休憩をはさんで6時まで続きました。僕らは本当に、聴衆と共に楽しみました。

ルイーゼとの思い出深い曲を演奏したときには、涙を流している人も多くて……。ふと後ろを見ると、バンドのメンバーもちょっと泣いていた。

デーブは孫娘が一緒のせいか、歌にギターに大奮闘。ここしばらく続いたいろんなストレスから、久しぶりに解放されたようでした。出産後、初めて本格的なライブのフランツイーも、赤ちゃんの前で大張り切り。

しかし、僕はというと、去年はルイーゼ、ナディーンと2人も亡くし、今年に入っても体調があまり優れなくて、モチベーションの上がらない日々が続いていた。でも、フランツイーの赤ちゃんを見ているうちに、そしてライブが終わった後、僕の心にまたやる気が湧いてきました。

木が枯れた後には、次の世代を担う新しい命が芽生えてくる。同じ命ではなくとも、こうやって世の中は続き、人々は繋がっている。

悲しい事、苦しい事がいっぱいあっても、みんな日常生活を送っている。どんなときでも、「注意深く目を凝らしてみれば、楽しいことを見つけることができるんだ」と、僕は再確認しました。それが、僕ら残されたものが、先に逝ってしまった人へできる最上のことなのかも、と思いました。「国破れて山河在り」。昔あまり理解できなかった言葉が浮かんできました。

お地蔵さんのような天使

写真1 お地蔵さんみたいに手を合わせている置物

次の日は11時頃にルイーゼの墓に集合。墓には、色とりどりの花が植えられていました。誰かが小さなネズミを見つけ、「動物好きのルイーゼらしいな」と言っていました。

墓には普通は天使の像などが置かれているのですが、ルイーゼの墓に置いてあった像は丸坊主で、どう見ても僕にはお地蔵さんにしか見えません。(写真1)

ルイーゼに火をつけたタバコを供えて、彼女が好きだった「イェガー・マイスター」というハーブリキュールの小瓶も供え、みんなで一気に飲み干しました。

人といるのが大好きで、彼女の太陽のように明るい性格が人を引きつけるのは、亡くなった後も変わっていません。空から見ていると言っていたルイーゼに、「早く降りてきて参加しなよ」と、晴れた上空に僕は時々声をかけていました。

ライプチヒの街

写真2 宿泊したホテルから見えたアンティークな建物

2年前、ルイーゼのサプライズパーティで演奏するため初めてライプチヒの街を訪問。そこに住む人や街がとても気に入ってしまった。テレビでよく紹介される「ネオナチが我が物顔で闊歩し、デモにかこつけて暴力をふるう危険な街」など微塵も感じませんでした。

しかし、僕らがそういう場所にいなかっただけで、厳然としてそういう面が街にはあります。ホテルの前で路上駐車をしようとすると、「駐車場に止めて」と言われました。「ミュンヘンのナンバープレートの車を見ると、妬みから車に傷をつける嫌がらせがよくあるから」と言われ、現実に引き戻されました。

街のいたるところにある古い伝統的な建物は、窓が割れたりして修復やメンテナンスが行き届いていなくて、見ている僕を悲しくさせます。(写真2)

ミュンヘンと同じ芸術と伝統的な文化の街ライプチヒ。長い間、社会主義国家の東ドイツだったライプチヒは、僕が感動した思い出の場所。もっと良くなって欲しいと思いながら帰路につきました。

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