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ドイツがん患者REPORT 21 「再びルイーゼのために」
6年前の直腸がん手術から2度の転移。
今も抗がん薬治療中のドイツ在住の小西雄三さん。
去年若くして亡くなったルイーゼのために再びライプチヒへ演奏に。
再びライプチヒへ
6月3日は、ルイーゼの命日。ドイツでは命日には家族や親しかった人が墓に参り、花を捧げるのが一般的です。
「パーティが好きだったルイーゼのためにライプチヒに集まって、彼女を偲んで思い出話でもしようよ」と誰かが言い出して、「それなら2年前にサプライズパーティをやった店で」となり、「ついでに、あの時のバンドも呼ぼう」と、話はトントン拍子に進みました。
6月4日、土曜日の朝9時ミュンヘンを出発。渋滞もほとんどなく、運転するバンドのパーカッション担当のカティは車を飛ばすので、午後2時前には宿泊するホテルに到着。今年1月に出産したばかりのボーカルのフランツイーは、旦那さんと赤ちゃんと別の車で来て、ホテルで合流しました。
今回はギターとボーカル担当のデーブも5歳になる孫娘と一緒でした。デーブの娘で孫娘の母親ナディーンを去年がんで亡くしているデーブは、今回のライプチヒ行きはきっと様々な思いがあるでしょう。
どんなときでも、楽しいことを見つけることはできる
僕たちのライブは、午後3時から、3度の休憩をはさんで6時まで続きました。僕らは本当に、聴衆と共に楽しみました。
ルイーゼとの思い出深い曲を演奏したときには、涙を流している人も多くて……。ふと後ろを見ると、バンドのメンバーもちょっと泣いていた。
デーブは孫娘が一緒のせいか、歌にギターに大奮闘。ここしばらく続いたいろんなストレスから、久しぶりに解放されたようでした。出産後、初めて本格的なライブのフランツイーも、赤ちゃんの前で大張り切り。
しかし、僕はというと、去年はルイーゼ、ナディーンと2人も亡くし、今年に入っても体調があまり優れなくて、モチベーションの上がらない日々が続いていた。でも、フランツイーの赤ちゃんを見ているうちに、そしてライブが終わった後、僕の心にまたやる気が湧いてきました。
木が枯れた後には、次の世代を担う新しい命が芽生えてくる。同じ命ではなくとも、こうやって世の中は続き、人々は繋がっている。
悲しい事、苦しい事がいっぱいあっても、みんな日常生活を送っている。どんなときでも、「注意深く目を凝らしてみれば、楽しいことを見つけることができるんだ」と、僕は再確認しました。それが、僕ら残されたものが、先に逝ってしまった人へできる最上のことなのかも、と思いました。「国破れて山河在り」。昔あまり理解できなかった言葉が浮かんできました。
お地蔵さんのような天使
次の日は11時頃にルイーゼの墓に集合。墓には、色とりどりの花が植えられていました。誰かが小さなネズミを見つけ、「動物好きのルイーゼらしいな」と言っていました。
墓には普通は天使の像などが置かれているのですが、ルイーゼの墓に置いてあった像は丸坊主で、どう見ても僕にはお地蔵さんにしか見えません。(写真1)
ルイーゼに火をつけたタバコを供えて、彼女が好きだった「イェガー・マイスター」というハーブリキュールの小瓶も供え、みんなで一気に飲み干しました。
人といるのが大好きで、彼女の太陽のように明るい性格が人を引きつけるのは、亡くなった後も変わっていません。空から見ていると言っていたルイーゼに、「早く降りてきて参加しなよ」と、晴れた上空に僕は時々声をかけていました。
ライプチヒの街
2年前、ルイーゼのサプライズパーティで演奏するため初めてライプチヒの街を訪問。そこに住む人や街がとても気に入ってしまった。テレビでよく紹介される「ネオナチが我が物顔で闊歩し、デモにかこつけて暴力をふるう危険な街」など微塵も感じませんでした。
しかし、僕らがそういう場所にいなかっただけで、厳然としてそういう面が街にはあります。ホテルの前で路上駐車をしようとすると、「駐車場に止めて」と言われました。「ミュンヘンのナンバープレートの車を見ると、妬みから車に傷をつける嫌がらせがよくあるから」と言われ、現実に引き戻されました。
街のいたるところにある古い伝統的な建物は、窓が割れたりして修復やメンテナンスが行き届いていなくて、見ている僕を悲しくさせます。(写真2)
ミュンヘンと同じ芸術と伝統的な文化の街ライプチヒ。長い間、社会主義国家の東ドイツだったライプチヒは、僕が感動した思い出の場所。もっと良くなって欲しいと思いながら帰路につきました。
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