精神腫瘍医・清水 研のレジリエンス処方箋

第8回 再発の不安とどう向き合えばいいのか

構成・文●小沢明子
発行:2020年11月
更新:2020年11月

  

しみず けん 1971年生まれ。精神科医・医学博士。金沢大学卒業後、都立荏原病院で内科研修、国立精神・神経センター武蔵病院、都立豊島病院で一般精神科研究を経て、2003年、国立がんセンター(現・国立がん研究センター)東病院精神腫瘍科レジデント。以降一貫してがん患者およびその家族の診療を担当。2006年、国立がんセンター中央病院精神腫瘍科勤務、同病院精神腫瘍科長を経て、2020年4月よりがん研有明病院腫瘍精神科部長。著書に『人生で本当に大切なこと』(KADOKAWA)『もしも一年後、この世にいないとしたら』(文響社)『がんで不安なあなたに読んでほしい』(ビジネス社)など

がん患者さんの中には「初期治療のあと再発するのではないか」という不安が頭から離れないという方がいます。不安という感情は危険が迫っているとき、その準備をさせてくれるシグナルです。がん患者さんが、再発への不安を感じるのは不思議なことではありません。

不安が強くなる原因の1つに、情報が少ないことがあげられます。自分がどのような状況にいるのかを医師に聞くことは怖いかもしれませんし、自分の再発リスクについてはなるべく考えないようにしたいという人もいるでしょう。また、ご自身の中で、再発リスクを知りたい気持ちと知りたくない気持ちが同居しているということもあるのではないかと思います。

いずれにしても、真っ暗な闇に中にいると人は不安になるものです。知らないまま過ごしていると、「再発の可能性は2割かもしれない」「8割かもしれない」と不確実さで苦しむことになりかねません。どうするかは人それぞれで、知らないままにしておきたいというやり方もあります。私の場合は不確実さを減らしたいと考えるでしょうから、病気の再発のリスクについてわかる範囲で知っておきたいと考えます。

自分の病状に対する5年生存率について医師に聞いたとして、その事実に対する自分の気持ちをあるがままに認めてあげることが重要です。5年生存率50%と言われたら、「50%もある」といい方向に捉えられる方もいますが、「あと5年、生きられないのではないか」と心配のほうが大きくなってしまう方もいます。それも自然な心の動きだと思います。無理にポジティブに考える必要はありません。そういう不安に蓋をして無理に明るく振舞おうとすると、どうしても心に負担がかかります。

再発の不安が頭から離れないときは

自分の再発のリスクについて理解したら、そのうえで、自分でできる再発予防をしましょう。いくつかのがんは手術後の再発率を下げるための治療があります。喫煙していた方なら、禁煙することにより、再発やさらなるがんの発症を予防することにつながるでしょう。

ただ、がんの場合は、自分の努力でコントロールできないことのほうが多く、運命にゆだねるしかないことがたくさんあります。

自分の力ではどうしようもない不安を、何とかしようと焦るとうまくいかないので、より焦ってしまうことにつながります。

「不安だけれど、結果を待つ以外にないんだ」と認識して、不安を不安のままにしおくことも必要ではないかと思います。

また、「再発について考えないようにしている」という患者さんもたくさんいます。でも、これは逆効果だと言われています。考えないようにしようとすると、すでにその時点で考えてしまっているので、余計に再発のことが頭に浮かんでしまうからです。

では、どうしたらいいのでしょうか。脳をコンピュータにたとえれば、さしずめ脳細胞はメモリ。だとすれば、病気のことに使うのではなく、別のことでメモリを占拠するようにすることです。そうすれば不安なことを考える余地がなくなります。

わかりやすい例をあげると、ゲームに夢中になっているときは、がんの再発について考えること自体ができなくなります。不安でいっぱいになるのは、何もしないで1人でいるときが多いのではないでしょうか。

自分が没頭できる行動を増やしていくことが大切ではないかと思います。せっかくですから、自分が好きなこと、夢中になれることをやって過ごしてみてください。家族と話すこと、おいしいものを食べること、仕事をすることなど、自分にとって大切な活動に集中して過ごすと、不安にとらわれることが少なくなるはずです。

とはいえ、不安になりすぎないようにするのは、簡単ではないかもしれません。そのときは、この連載の第5回で紹介した「不安日記」(正確には週間活動記録表)やマインドフルネスを試していただければと思います。不安日記をつけると、自分が不安を感じやすい行動を知ることができます。マインドフルネスは、目の前のことに集中することで、不安から意識をそらすことができます。

再発しても気持ちを抑え込まないこと

がんの再発は、いろいろな意味で初発とはくらべものにならないほどの大きな苦しみを伴うものだと思います。これまで「がんから解放される」ことを目標にしてきたのに……と、徒労感や無力感、絶望感に襲われる方もおられます。

この大きな喪失を受け入れるには、時間とさまざまなプロセスが必要で、それは一度にできるものではありません。

起こったことが理解できずに茫然自失になる時期、取り乱して泣き叫ぶ時期、理不尽な現実に怒りがこみ上げる時期、失ったものに目を向けて涙が止まらない時期、自分につきつけられた現実を理解してしみじみ泣く時期など、さまざまな様相を呈しながら少しずつ現実と向き合えるようになっていきます。

どんな道のりを経て気持ちが変わっていくかは人それぞれです。つらい感情自体にも意味がありますから、それを抑え込もうとしないでください。無理に冷静になろうとするのは、傷ついている自分をさらに追い込むだけですから。

悲しみと怒りに沈んでも、患者さんの多くは時間の経過とともに落ち着きを取り戻し、強い風にたわんだ柳のように立ち上がって、生きることを深く考えるようになります。心理学ではこのことを「レジリエンス(回復力)」と言います。

また、「がんになって良かったとは思えないが、病気にならないと気づけないこともあった」という言葉も多くの方から伺いました。「心的外傷後成長(Posttraumatic Growth)」という概念で説明されていますが、逆境から人は大切なことに気がつき、成長できる側面があるということも言われています。

ただ、「早く立ち直らなければならない」、「自分も成長しなければならない」と焦る必要はありませんし、その考えはその方を苦しめてしまい逆効果になります。がんと自分なりに向き合う中で、レジリエンスは自然と発揮されるものなのです。

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