5年生存率は7~8割で、口の機能も、容貌も温存
進行口腔がんでも切らずにすむ!抗がん剤と放射線のパワー
療法の研究にまい進している
藤内祝さん
進行口腔がんの新治療として、耳の前と頭の後ろから抗がん剤を患部に注入する「逆行性超選択的動注化学放射線療法」が注目されています。
治療効果が高いうえに口の機能、容貌も損ねずにすむからです。さらに、温熱療法を併用して治療効果を高める研究も進められています。
口腔がんを切らずに機能を温存する
口腔がんは口の中にできるがんの総称で、舌がんや歯肉がん、頬の粘膜がんを指します。口腔がんの自覚症状は口内炎や歯肉炎に似ているため、がんと知らずに放置して、進行させてしまうケースが少なくありません。
「口腔がんに対する一般の人の認識はまだ薄いです。ただし、進行した口腔がんでは日常生活の基本である食べ物を咀嚼(かむこと)したり、飲み込んだり、話したりするという機能が損なわれます。また、顔の傷が目立つといった審美的な面における問題も深刻です。口腔がんこそ、QOL(生活の質)を保つために早期発見・早期治療が重要ということをしっかり認識していただきたいと思います」
こう話すのは、横浜市立大学大学院医学研究科顎顔面口腔機能制御学教授の藤内祝さんです。口腔がんの標準治療である手術、放射線治療、その併用療法に加え、抗がん剤と放射線を併用して手術をせずに機能温存を図る治療を行っています。
「口腔がんは病期が1~2期では手術や放射線療法、その併用療法を選びます。患者さんの負担が軽く、治療成績もいいからです。しかし、進行した3~4期では、舌がんだと顎を切り開いて舌を摘出するような大手術が必要となってしまいます。舌は半分以上摘出すると話をしたり、飲み込んだりすることが不自由になります。舌や顎の再建はできますが、形態的にはよくても、複雑な機能の回復までは難しく、治癒率も満足できる結果は出ていないのが現状です」
抗がん剤を動脈からがんに直接注入する
そこで、試みられたのが"超選択的動注"化学放射線療法という抗がん剤と放射線の併用療法。この治療法では、抗がん剤はカテーテル(管)を利用して、 がんに栄養を送る動脈から直接注入します。すると、がんに抗がん剤が集中的に行き渡るので、全身の正常組織への悪影響が少なくなります。これが"超選択的動注"と呼ばれるゆえんです。通常は、足の付け根の動脈から外頸動脈経由で舌動脈、顔面動脈、顎動脈という口内の栄養供給を担う動脈(支配動脈)にカテーテルを入れる方法が採られています。
しかし、足の付け根からカテーテルを挿入すると、留置しておくことができず、その都度抜かなくてはなりません。また、カテーテルが総頸動脈を通過するときに脳内へ向かう内頸動脈のほうに血液の塊が流れ、脳梗塞を起こす危険もありうるといいます。
耳のほうからカテーテルを入れる
そこで、藤内さんは、"逆行性"超選択的動注化学放射線療法という治療法を開発しました。耳の前を走る浅側頭動脈と耳の後ろ側の後頭動脈からカテーテルを入れる方法で、心臓からの血流の"順行性"に対して逆行してカテーテルを挿入する、という意味です。ここから口腔がんの支配動脈である舌動脈、顔面動脈、顎動脈に抗がん剤を入れるのです。
この方法のメリットは、常時カテーテルを留置できて、総頸動脈にカテーテルが通っていないため脳梗塞のリスクも少なくなくなることです。
「抗がん剤治療と放射線治療は同時に行うのが最も効果が高いので、いつでも抗がん剤を注入できるよう、カテーテルを留置しておくことが大切なのです」
まず青い色素や造影剤を使ったCT検査などを行い、確実にカテーテルが支配動脈に留置されるか、がんの病巣に到達しているかを確認します。治療は約6週間行います。内容はタキソテール(*)注入を週1日×6回、シスプラチン(一般名)注入を5日×6週、放射線(通常はリニアック)5日×6週(1日2グレイずつ計40~60グレイ照射)。
「がんが大きくなると、腫瘍がある側の反対側の動脈から栄養を受けているといった場合もあり、そういうケースでは左右4カ所からカテーテルを入れることもあります」
*タキソテール=一般名ドセタキセル
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