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肝疾患合併患者さんのがん治療
B型肝炎ウイルス保持者は がん治療中の劇症化に注意を!
肝臓は栄養素の代謝・貯蔵、胆汁の産生、有害物質の解毒、赤血球の分解、血漿成分の合成など、多彩な機能を持つ臓器である。肝臓病のうち、がん治療に大きな影響を与えるのは慢性肝炎と肝硬変だが、最近は化学療法中にB型肝炎が再燃し、劇症化することが問題になっている。肝疾患合併によるがん治療への影響とは――。
B、C型肝炎が減り NASHが増加
がん患者さんに合併する肝臓病の中で最もよく知られているのはウイルス性肝炎であり、ほとんどがBおよびC型肝炎である。
都立駒込病院肝臓内科医長の今村潤さんは「これらの肝炎は多くの場合、慢性化して肝臓の細胞が硬くなり、解毒や様々な物質の合成や、グルコースをグリコーゲンに変える機能が低下する肝硬変に至ります。さらに肝がんに進むことも少なくありません」と話す。
「しかし、B、C型肝炎は母親から子供への感染を防止する対策や、献血時の感染チェックの強化が進んだこともあり、新規の感染者は以前に比べ大きく減少しており、その結果、肝がんも徐々に減り始めています」(図1)
B、C型肝炎の患者さん数についてはB型肝炎が約130万人、C型肝炎が約170万人と推計されている。
ウイルス性肝炎以外にも多量の飲酒習慣で起こるアルコール性肝障害(肝炎)があるが、その患者さん数は250万人程度との報告があり、ウイルス性肝炎と合わせると全国に500万から600万人くらいの患者さんがいると言われている。
また、これら以外に肥満が原因で肝臓全体に脂肪が溜まって肝機能が低下する脂肪肝という病気もあり、患者さん数は1500万人に達するとも言われている。
「脂肪肝は従来、肝臓の機能を示す検査項目のトランスアミナーゼ(ALTとAST)が多少上がるくらいで肝硬変に進むことはないとされていましたが、最近、脂肪肝でも炎症が長期間持続すると、肝硬変に進むことがわかり、これを非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)と呼んでいます。脂肪肝からNASHに進むのは全体の約20~30%と言われています。最近はNASHが原因で起こる肝硬変・肝がんも増加しています」
2011年の「わが国における非B非C肝硬変の実態調査」で肝硬変患者さんの原疾患を調べたところ、B型肝炎が12%、C型肝炎が60・9%、B型+C型の重複感染が1・1%、B型肝炎もC型肝炎もない非B非Cは26%だった(図2)。この非B非Cの人達の原疾患はアルコール性肝炎、NASH、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変などだが、最も多いのがアルコール性肝炎で、次がNASHだ(図3)。
肝臓疾患は 治療選択肢を制限
今村さんによれば、肝臓病合併がん患者さんでは、がん治療の選択肢が制限される場合があると言う。
「例えば大腸がん手術などでがんを切除する場合、肝機能が低下していると、手術自体ができない場合があります。また、肝がんでは肝機能に応じて、どの範囲まで切除できるかが決められており(図4)、肝機能が低いほど切除できる範囲が小さくなり、再発リスクが高まります。
さらに肝硬変が進んだ状態では、肝臓の*合成能が低下して、全身の栄養状態が悪いことを示す低アルブミン血症が起こりますが、低アルブミン血症があると手術で縫合した傷の治りが悪くなったり、腹水が溜まりやすくなったりするので注意が必要です」
実際に手術をするかしないか、どこまで切除するかは、手術による*侵襲の大きさと肝機能を勘案して決めることになる。ただ、肝機能が悪くても、手術の侵襲がそれほど大きくなければ施術する場合もあり、侵襲が比較的小さい内視鏡手術は進行した肝硬変がある人でも可能な場合もある。
「肝硬変がさらに進行し、うまく排出できないほど腹水が溜まっているような方で外科的切除を行うことはほとんどないと思いますが、そういう場合は利尿薬を使ったりしてコントロールが可能であれば手術も検討します」
*合成能=血漿タンパク、ヘパリン、貧血阻止物質などを合成する能力 *侵襲=外科手術などによって体を切開したり、薬剤の投与によって体に変化をもたらす行為
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