シンポジウム「骨転移診療における緩和医療とリハビリテーション医療の融合」から
骨転移痛の緩和における全人的ケアや リハビリの在り方などを議論
昨年(2013年)10月に、京都市で開催された第51回日本癌治療学会学術集会では、「Bench to Home(ベンチ [研究室]から家庭まで)」をメインテーマに、最新のがんの研究成果を、家庭など患者さんが生活する場へどのようにして広げていくかが議論された。
会期中に行われたシンポジウム「骨転移診療における緩和医療とリハビリテーション医療の融合」では、がん患者の約40%が経験するという骨転移を、痛みの改善と機能回復を通じた生活の質(QOL)の向上という2つの視点から、患者のために緩和医療とリハビリテーションに何ができるかについて話し合われた。
その中からとくに興味深かった3つの演題を取り上げた。
骨転移症例に対するリハビリの意義
身体的苦痛と精神的苦痛の緩和で全人的ケアにつなげる
骨転移はがん患者の60~80%にみられるといわれ、決して珍しいものではない。また、がん疼痛の約40%には骨転移が関与しているという。がんによる痛みは、日常生活動作(ADL)に悪影響を与える上、リハビリテーション(リハビリ)の妨げにもなるため、結果的に全人的なケアを困難にすることになる。
京都府立医科大学大学院疼痛緩和医療学講座、病院教授の細川豊史さんは、全人的ケアにつなげるための、様々ながん疼痛治療方法を紹介した。
症状緩和が大きな役割
骨転移に対する治療では、症状を緩和させることが重要となる。症状緩和を目指した治療は、表1に見られるように非常に幅広いが、がんそのものの治療はもちろんのこと、痛みの治療や骨折の予防と治療が主な目的となる。またリハビリテーションは、痛みの治療期間中はなかなか患者が動けないこと、また治療が終わっても動くことで痛みを感じるのではという不安があるために動かない――という2点からみて、これらにより低下した身体の機能を補うことで、患者のADLや生活の質(QOL)の向上にとって大きな役割を果たす。
痛みに対する3段階の治療目標
がん疼痛の治療目標としては3段階ある。まずは痛みによる睡眠障害を除くこと。次に安静時の痛みを除くこと、さらに最後に体を動かす際に起こる痛みをなくすことである。
薬剤による痛みの改善と骨転移の進行抑制には、骨粗鬆症治療薬として知られているビスホスホネート製剤が使用される。がん細胞は、本来は古い骨を溶かし新しい骨を産生する破骨細胞の機能を高め、がん細胞の骨転移に利用している。ビスホスホネートは、この破骨細胞の働きを抑制することにより、骨転移の進行を抑える効果とともに、痛みも軽減する効果もある。
緩和ケアでは放射線治療が第一選択
放射線治療は骨転移の緩和ケアで第一の選択肢であり、除痛において欠かせない役割を持つ。京都府立医科大学付属病院の疼痛緩和医療部にも放射線科医師が常勤しており、骨転移の治療や除痛に大きく貢献しているという。放射線治療の主な目的は、除痛や麻痺の予防・制御であるが、切迫骨折の予防目的としても有用であるとの海外のデータもあり、細川さん自身も骨が強くなる印象を持っているという。
さらに、脊椎転移時の脊髄圧迫の緩和・予防や、頭蓋底転移における脳神経症状の予防・改善などの効果も見込まれている。とくに脊髄麻痺については、48時間以内であれば高い効果を見せ、48時間後でも痛みの改善としては一定の効果がある。
同大学の調査では、薬物療法で効果があまり見られなかった19例に放射線を照射したところ、89%にあたる17例で鎮痛効果が得られた。
また、放射線照射による治療が難しい多発性骨転移患者に対しては、放射性物質であるストロンチウム注射剤による治療で約7割に効果がみられたという報告もある。ただし、ストロンチウム注射療法は、現在一部の病院のみで使用可能であるという。
骨折予防や治療に椎体形成術も
骨転移に対する整形外科的治療としては、脊髄神経麻痺を来した場合や骨転移による骨折およびその治療、骨転移によって弱くなった箇所を骨折予防や除痛のための補強や固定、さらに脊椎病的骨折に対する椎体形成術などがある。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やオピオイド鎮痛薬、鎮痛補助薬やアセトアミノフェンなどを用いた薬物療法もあり、放射線治療などの他の治療法と併用することで痛みのコントロールが向上する。さらに、痛みが非常に強い場合には、神経ブロック療法を行うことで劇的な改善がみられることもある。
細川さんは「全人的ケア(表2)が話題になることが多いが、痛みのような身体的苦痛があると他のケアも難しくなる。治療により痛みを和らげると、リハビリが可能になり身体的苦痛と精神的苦痛の両方を緩和でき、全人的ケアにつなげることも可能になってくる」と述べている。
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