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ドイツがん患者REPORT 28 「ジルヴェスター(大晦日)」
ドイツのクリスマス休暇は、12月24日の午後から始まり26日までが公式の祭日です。その後の大晦日まではレームダック化してしまい、もう今年は終わったという気にさせられます。
12月の22、23日が土日の年などは、3日間の有給休暇を取るだけで10日間の長期休暇になります。とくに子持ちの人たちは優先して有給休暇が取れるようになっているせいか、街が少し寂しい感じがしてきます。
とは言え、もう終わったような気にはなっていても、まだ本当には終わってはいないので、最後の締めくくりとして、新年への「カウントダウン」もドイツでは大きなパーティ形式で、年々盛んになってきました。
ディナー・フォー・ワン(Dinner for one)
「大晦日の夜は、紅白歌合戦を見て年越しそばを食べる」。これは僕が日本に住んでいた30年前にしていたことです。紅白は、出演者が変わっても、伝統的というか、国民的な番組として今も存在しているように、ドイツでもそのようなものがあります。1963年に制作された劇映画、『ディナー・フォー・ワン(お1人様のディナー)と呼ばれている短編映画がそれで、以来大晦日の晩には必ず放映されています。
登場人物は女主人と執事の2人だけ。ストーリーは、主人の90歳の誕生日を祝おうとすると、いろいろなハプニングが起こり、そのたびに執事はグラスを空けるはめになって、酔っ払ってしまうという単純なコメディです。白黒画像、なぜか英語で字幕もなしですが、その演技と雰囲気で子供から老人まですべての人が見るだけで理解できます。
僕もほぼ毎年見ていますが、なぜかまた見てしまいます。やっぱり、ドイツの紅白歌合戦みたいなものなのでしょう。若い世代も小さいころに親と一緒に見ていたせいか、みんな知ってはいますが、積極的に見ようとする人は少なく、彼らにとっての大晦日は、僕らの世代とは風習が変わってきているようです。
ジルヴェスター(Silvester)
大晦日の日をドイツ人は「ジルヴェスター」と呼んでいて、キリスト教の聖シルヴェスターの日から来ているそうです。
ジルヴェスターは、家族や友人たちとゆっくりできる食事、例えばフォンデュなどを楽しみながら12時までホームパーティをして過ごす。そして新年へと変わる午前0時前、みんながグラスを手に(フランスならシャンパンとなるのでしょうが、それに近いクオリティーの安価なスパークリングワインがドイツにはたくさんあるので、それを持って)外に出て、カウントダウンを行い、年が変わった瞬間におめでとうの挨拶をします。今は、若い世代を中心に、街に繰り出し、レストランやホテル、クラブなどで企画されたパーティを大勢で楽しんだり、名所に集まってカウントダウンを大勢で楽しんでいます。そう、「大勢で」ということに、親しい人たちの内輪だけのものから変化しているようです。
また、その日は老若男女問わず花火を打ち上げ、何時間もそれが続きます。あまり体調のよくなかった僕は外にも出ませんでしたが、バルコニーからは例年のごとくその煙で視界が遮られるほどの打ち上げ花火が見えました。一説によると、この日に使用される花火だけで、経済効果が何百億円とも言われ、大量のお金が瞬時に煙となってしまいます。その金額によって、その年の景気がわかるともいう人もいます。
しかし、残念なことに2015年のジルヴェスターは、その後の国民の不安感をあおるような事件が、とくにケルンで多発しました。外国籍の難民と思われる人たちが、考えられないくらい多くの窃盗や性犯罪、暴力事件を起こしました。ポリティカルコレクト、または外国人排斥が強まると判断したメディアが、報道の自主規制を敷きました。
今の時代、すぐにSNSなどを通じて事件が広まるのに、そういうことを考慮しなかったため、それまで一般報道を信用していた多くの人たちにまで、メディア不信を感じさせることになってしまいました。また、SNS のデマ情報を増長させたり、そうでなかった人たちにまで、難民に対する悪感情を持たせることに協力をしてしまったことになりました。
公安や警察が例年にもまして警備を強化したおかげか、2016年のジルヴェスターは大きな事件もなく、ドイツでは無事にすみました。ただ今回は、テロへの不安のためか、外で祝う人は例年よりも少なかったようです。家内は、例年通り外で祝う息子を案じていましたが……。外で祝うことがとくによいとは思いませんが、こうしたテロのような外因で、祝う自由を制限されることには不満です。
バレンタインデー
「1月はいぬ」でしたっけ? すぐに過ぎ去り、2月になるとバレンタインデーがドイツにもきます。これも、聖人の名前を冠したキリスト教のものです。日本では、女性からチョコを送ることによって愛の告白をする日、という話ですが、僕自身は日本にいたころには、義理チョコをもらった記憶しかないです。
ドイツの場合は、パートナー間で、男性からお花や小さな贈り物をする日です。愛情の確認、または感謝の気持ちを表すというような感じで、愛の告白からはほど遠いものです。こう書くと、なんだか母の日みたいですね、子供を男性ととらえるのなら。
こうやって、聖人の名が冠せられた日を祝い、キリスト教の祝日を祝いながら、ドイツでの日々は過ぎていきます。とは言え、僕は日本人だから、やっぱりお正月がいちばん大事。新年に変わるときは、今年も生き残れたという感慨深いものが湧いてくるからかもしれません。僕の場合は、つらいときにこそ、そういう感慨を持ち、生きていることに感謝できれば、つらいときも少しは楽になれます。祝日ごとにそうなれればよいのでしょうが、なかなかそううまくはいきませんね。
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