治療薬の効果にも差が
進行大腸がんにおいて 原発部位が左側の患者では生存期間が長い
昨年の米国臨床腫瘍学会(ASCO2016)で注目された話題の1つが「大腸がんの原発部位(左右)により予後に大きな差が認められる」という研究報告。
日本でもこの左右差に関する研究は行われており、日本人患者においても同様な傾向の認められることが確認されている。原発部位の違いによる予後への影響とは? さらにこのことが治療にどのような影響を及ぼすのかを専門家に聞いた。
原発部位の左右差で生存期間に有意差
ASCO2016で発表されたのは、進行大腸がん患者1,140例を対象としたCALGB/SWOG80405試験の探索的解析の結果。同試験では、化学療法と抗VEGF抗体*ベバシズマブまたは抗EGFR抗体*セツキシマブの併用投与療法による予後を比較。2014年の同学会で発表された主解析では、両群間での全生存期間(OS)の中央値ならびに無増悪生存期間(PFS)に有意差は認められなかった。
しかし昨年(2016年)報告されたレトロスペクティブ(後方視的)解析では、原発巣が右側(盲腸、上行結腸)か左側(下行結腸、S状結腸、直腸)かで層別化し(図1)、OS中央値を解析したところ、左原発巣で33.3カ月、右原発巣で19.4カ月と有意差が認められた。薬剤別の解析でも、左原発巣でOS中央値が長いことが認められたほか、右原発巣群ではベバシズマブ治療患者、左原発巣群ではセツキシマブ治療患者の方が生存期間が長いことが確認された。
報告を行った米カリフォルニア大学サンフランシスコ校内科教授のAlan P. Venookさんは「転移再発大腸がんでは、原発部位により治療成績に大きな差があることが明らかになり、個別的な治療におけるバイオマーカー的な役割を担うことが示唆された。また原発部位により治療薬の効果に差があることも明らかになった。さらに、転移大腸がんの治療に当たっては、原発部位を明確にし、治療薬選択の際にその特性を考慮することが重要となることが示唆された」としている。
わが国でもこの大腸がんの左右差が予後にもたらす影響についての研究が行われており、聖マリアンナ医科大学臨床腫瘍学講座准教授の砂川優さんもその一人。砂川さんは2016年に米サンフランシスコで開かれたASCO消化器がん関連シンポジウム(ASCO-GI 2016)において、「日本人切除不能大腸がん患者の生存期間に及ぼす原発病変部位の影響:JACCRO CC-05/06試験のサブグループ解析」結果を報告、日本人患者でも同様な傾向が見られることを明らかにしている。
*ベバシズマブ=商品名アバスチン *セツキシマブ=商品名アービタックス
左右差の原因
ではなぜ左右差が生じるのか。
前出のVenookさんは左右差の原因の一つとしてヒトの発生学的な違いを挙げている。発生学において、右(近位)大腸は中腸系、左(遠位)大腸は後腸系と異なる由来を持ち(図2)、支配血管も右側大腸は上腸間膜動脈系、左側大腸は下腸間膜動脈系となっており、一口に大腸がんと言ってもその背景が異なる。
砂川さんも「上行結腸と下行結腸では、粘膜の構造ががらりと違います。そこにできるがんが生物学的に違っていてもおかしくない。当然というか、理にかなっているということです」と述べる。
また砂川さんは別の原因として、腸内細菌(叢)の違いも挙げる。
「とくに最近言われているのが、右側の大腸がんは腸内細菌や炎症により発生するものが多いのではないか、というものです。がんは炎症に曝露されるとできやすいので、曝露される炎症が強い右側に性格の悪いがんができるのではないかということです。また発がん過程において、遺伝子が(放射線も含めて)何らかの要因に曝露され傷ついて突然変異が生じ、その積み重なりにより発生するのががんなので、そういう意味で右側に遺伝子異常が多ということがわかってきた。
例えば大腸がんで一番多いのが直腸がん、S状結腸がん。両方とも左側です。そこにできたものよりは、右側にある盲腸とか上行結腸などにできたがんのほうが質(たち)が悪い。
ただ気を付けなければならないのは、切除できる状態で診断された(ステージⅠ、Ⅱ)場合は、左右差はあまりまだはっきりしていない。一番良くないのは、再発のケースと診断時にすでに転移のあるステージⅣで診断された人では、間違いなく左よりも右のほうが悪いということがわかってきたということです」
砂川さんによると、大腸がんの原発病変部位による治療成績の差は、外科医の間でも経験上、長年指摘され続けてきた事案だという。
「日本の外科の先生方も左右差は何となくわかっていたようですが、今回、データとして、きちんと数字として出てきて、面白い話題となったということ。最近、新しくわかったということではなく、もともと知られていたことがわかってきたということです」と述べる。
転移大腸がん患者の予後予測因子に
この大腸がんの左右差には、2つの大きな問題を含んでいる。1つがすでに述べてきている生存期間と関連する予後予測因子となり得るのか。もう1つは原発部位によって治療薬を選択できる効果予測因子になるかということ。前者では、早期がんであれば手術切除で完全治癒にもっていければ左右差は関係なくなる。問題は再発進行がんで、手術不能となり、全身化学療法が適応された場合に、病巣部位の左右差が薬剤選択の大きな要因となるのか、というものである。
砂川さんがASCO-GI2016で報告した「JACCRO CC-05/06試験のサブグループ解析」では、セツキシマブ+*mFOLFOX6療法の有効性を検討したJACCRO CC-05試験とセツキシマブ+*SOX療法の有効性を検討したCC-06試験に参加した日本人KRASエクソン2野生型mCRC(転移大腸がん)患者110人を対象に、原発腫瘍部位が転帰(アウトカム)に及ぼす影響を検討した。
その結果、病変部位による層別解析(全例)において、左側病変群では右側病変群に比べて、全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)がともに有意に長かった(OS: 中央値11.1カ月 vs. 5.6カ月、p<0.0001, PFS: 同 11.1カ月 vs. 5.6カ月、p=0.0041)。この関連性はmFOLFOX6療法群では認められたが(OS: p<0.0001, PFS: p=0.0002)、SOX療法群では有意ではなかった(OS: p=0.079)。また、多変量解析では病変部位はOSおよびPFSの有意な関連因子であることが示されたという(表)。
この結果について、砂川さんは「原発病変部位はセツキシマブ、*オキサリプラチンベースの化学療法を受けた転移大腸がん患者の予後予測因子であり、病変部位によって予後が異なる可能性が示唆された」と述べている。
「いままでのデータはすべて海外のもので、日本人でも果たして同じことが言えるのか、ということを検証したところ、それがきちんと示せたという結果です。海外のデータも日本人に外挿(がいそう)してもいいのではないか、ということです」
*modified FOLFOX 6=フォリン酸(ホリナートカルシウム、レボホリナートカルシウム)、フルオロウラシル、オキサリプラチンによる3剤併用療法 *SOX=テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム、オキサリプラチンによる2剤併用療法 *オキサリプラチン=商品名エルプラット
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