進行別 がん標準治療
治療の中心は外科手術。ただし、選択するのは患者自身
上野文昭さん
大腸がんは、食生活の欧米化などによって現在日本でも急増中のがん。
毎年約6万人が大腸がんになっていると推計されています。
30~40代でも大腸がんはありますが、60歳代から患者は多くなり、
高齢者に多いがんといえます。
大腸がんは、がんの中ではわりあいタチの良い部類に入ります。
1期の間に治療できれば90パーセント以上、2期でも早い段階ならば
80パーセント近い人が治っています。大腸がんと一口にいっても、
結腸にできる結腸がんと、お尻の入り口にできる直腸がんがあります。
結腸がんならば結腸を手術で部分的に切除しても大きな障害が少ないというのも、このがんの特徴といえます。
胃がん同様、現在では早期がんに対しては内視鏡的治療が進んでおり、
腹腔鏡下に行う手術も増えつつあります。
こうした大腸がん治療の現状も含めて、現在の標準治療について考えてみました。
大腸がん治療の考え方
治療の中心は外科手術
EBM(エビデンス・ベースド・メディスン=根拠に基づいた医療)に詳しく、内視鏡指導医でもある大船中央病院特別顧問の上野文昭さんは「従来からの大腸がんの標準治療は、外科手術」といいます。これに、より体への負担が少ない治療法として、現在は内視鏡的治療や腹腔鏡下手術といった先進医療が加わっています。
ただし、標準治療という点からみると「外科手術や抗がん剤、放射線治療というあたりでは、ほぼコンセンサスができあがっていますが、手術の方法や抗がん剤の選択、いつ放射線をあてるか、などの細かい点になるとまだ十分なコンセンサスがあるとはいえないのです。
また、先進医療の位置づけに関してもまだ社会的なコンセンサスを得るには至っていないというのが実情です」と語っています。
もちろん、内視鏡的治療や腹腔鏡による手術は、開腹手術に比べて患者の体への負担が少ないのが大きな利点です。こうした治療を安全にどこまで広げることができるのか、現在、進行した大腸がんも含めて、熱心に研究が進められています。しかし、まだその位置づけを明確にするところまでは来ていないようです。
死亡率では、男性のほうが若干上回るが、
発生率から見ると、男女の差はあまりない。
S状結腸と直腸の部分に、がんの発生率が高い。便がたまり、
便中の発がん物質の影響を受けやすいからと考えられる。
(大腸癌全国登録1993,1994より)
患者の状態、意思という点から総合的に判断
では、治療法を選択するときに、どういう考え方をすればいいのか。上野さんはこう語っています。「今は、EBMという言葉が盛んに唱えられていますが、エビデンス、つまり科学的な根拠をそのまま患者に当てはめることがEBMではないのです。もちろん、その治療にエビデンスがあるのか、コンセンサスが得られているのか、知っておくことは医師としては当然のことです。それがなければ、判断の根拠がなくなってしまいますから。
しかし、最終的に治療法を決定するのは、患者さんです。我々はその判断材料としてもっともいいと思われる治療の選択肢を提示する、このエビデンスを目の前にいる患者さんに適応していいのかどうかを考えて提示するということなのです」
具体的にいえば、大腸がんの場合、がんの病巣を摘出するという意味では、手術が基本です。しかし、がんを抱える患者の状態、そして患者の意思、選択という点から総合的に治療法を判断しなければならないのです。つまり、手術が基本といっても、全身麻酔をかけて開腹手術が行えるだけの全身状態なのかどうか。手術という大きな負担を強いるだけの必然性があるのかどうか。高齢で持病を抱えている患者さんならば、長期の予後よりも安全で体への負担が少ないという面から、治療法を考えていかなければなりません。
そして、もうひとつ重要なのが、患者さんの選択です。たとえば、手術によって治る可能性とそれに伴う後遺症の危険、あるいは治療として体にかかる負担は少ないけれど、5年生存率の成績が下がるとしたらどちらを選択するのか。手術後に抗がん剤の投与を受けるかどうか。患者さん自身の考え方や生き方が、治療法の選択においても大きな比重を占めているのです。
これが、世界の大規模臨床試験で一番効果が高いとされている治療です。だから、この治療法をすべての人に当てはめればいいというものではないのです。
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