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治療効果が向上した薬物療法を、できるだけ長く続けるために 副作用に配慮して薬剤を選んでいく多発性骨髄腫の治療

監修●萩原政夫 永寿総合病院血液内科主任部長
取材・文●柄川昭彦
発行:2013年1月
更新:2020年1月

  

「副作用をうまく管理して、治療を長く続けてほしい」と話す
萩原政夫さん

多発性骨髄腫の治療には、ここ数年で新しい薬剤が次々と登場し、治療効果が確実にあがってきている。いま注目されるのは、これらの薬剤の「副作用をいかに抑えて、長く治療を続けられるか」だ。それぞれの薬剤の副作用と患者さんに合った治療について、ポイントを紹介しよう。

新規薬剤の登場で治療成績が向上した

■図1 多発性骨髄腫とは?■図1 多発性骨髄腫とは?血液細胞の一種で、Bリンパ球が変化した形質細胞は、細菌やウイルスなどの異物をみつけると抗体を放出してそれらを攻撃する。また一部の形質細胞は骨髄で待機している。多発性骨髄腫になると、骨髄中に異常な形質細胞(骨髄腫細胞)が増え、役に立たない抗体(Mタンパク)を産出する

多発性骨髄腫は、血液細胞の一種である形質細胞が、がん化する病気である。形質細胞とは、病原菌などの異物から体を守るために抗体を作り出す細胞だ。

発病すると骨髄でがん細胞が増殖し、骨や貧血など血液数値に異常が現れてくる。骨は薄くなり、全身のあちこちで骨折が起きやすくなる。

また、不完全な抗体であるMタンパクが作られ、これが血液中にあふれるようになり血管内で詰まったり腎臓に排泄される過程で腎機能障害を引き起こしたりする(図1)。

この多発性骨髄腫に対して、新規薬剤と呼ばれるベルケイド、レブラミド、サレドの3剤が効果を発揮している。永寿総合病院血液内科主任部長の萩原政夫さんによれば、これらの薬の登場により、多発性骨髄腫の治療は大きく変わってきたという。

■図2 多発性骨髄腫の治療の流れ■図2 多発性骨髄腫の治療の流れ多発性骨髄腫の治療の流れ。治療の基本は化学療法である

「国内外を含めて、治療成績が向上しました。従来の化学療法では治療効果が得られなかった難治性の多発性骨髄腫に対しても、完全寛解を目指す治療が行われています。それが達成できなくても、長期生存を目指した治療が可能になっています」

多発性骨髄腫の治療は、大きく2つに分けられる(図2)。

65歳(施設によっては70歳)以下の患者さんであれば、自家移植を取り入れた治療の対象となる。まず薬による治療を行い、寛解に至れば移植が行われる。

65歳(あるいは70歳)を超える高齢者は、化学療法のみの治療となる。完全寛解を達成するのはなかなか難しいが、それに近いレベルの寛解を目指した治療が行われる。

ベルケイド=一般名ボルテゾミブ レブラミド=一般名レナリドミド
サレド=一般名サリドマイド

自家末梢血幹細胞移植=事前に造血幹細胞(赤血球、白血球、血小板を作り出す細胞)を自分の末梢血中から採取して冷凍保存しておき、大量の化学療法を行ってがん細胞を根絶した後、保存しておいた造血幹細胞を体内に戻す

効果の高い薬剤から使っていく

このような治療に、3種類の新規薬剤は、どのように使われるのだろうか(表3)。

■表3 多発性骨髄腫の治療薬
適応など 投与法 治療スケジュール
ボルテゾミブ 初発、再発、難治性への治療。 分子標的薬 点滴 1、4、8、11日目に点滴、 1週間休薬を8サイクル、など
レナリドミド 再発、難治性への治療。 サリドマイドの改良薬で、効果がより高い 飲み薬 1日1回服用を21日間継続し、1週間休薬
サリドマイド 再発、難治性への治療。 多発性骨髄腫治療で2番目に認可 飲み薬 1日1回寝る前に服用
メルファラン 従来からのMP療法として使用。 移植時の寛解導入療法などにも 飲み薬 4日間服薬を4~6週ごとに繰り返す、など

プレドニゾロンやデキサメタゾンなどの薬剤と併用して使う

「3種類の新規薬剤と言われますが、当院で主に使われるのはベルケイドとレブラミドの2剤です。施設による違いはありますが、サレドは、ベルケイドとレブラミドが効かなくなった場合に、最後の手段として使われています」

ただ、レブラミドの適応は「再発または難治性の多発性骨髄腫」となっているため、1次治療では使えない。

「3剤のなかで唯一、1次治療の保険適応があり、効果が期待できるベルケイドを、デキサメタゾンと併用する治療、あるいは旧来の薬剤であるアルケラン等と組み合わせた治療がまず行われます。ただし、ベルケイドは即効性があるのですが、副作用が強いという欠点もあります。レブラミドを使うのは、ベルケイドの治療を副作用で中断せざるを得なかった場合。あるいは、ベルケイドが効かなくなった場合です。最初からベルケイドを使わないこともあります。たとえば、患者さんが高齢で、かつ合併症があり副作用が出やすいと判断した場合等が、ベルケイドを見合わせてしまう場合です」

このような場合は、1次治療ではMP療法など、以前から行われていた化学療法を行い、それが効かないときに、レブラミドが使われることになる。

これが3種類の新規薬剤の使い分けである。ベルケイドとレブラミドについて、どのような副作用があるのかを解説してもらった(表4)。

■表4 新規3薬剤の主な副作用
  血 液 神 経 消化器 その他
ボルテゾミブ 血球減少 末梢神経障害 便秘、下痢 ウイルス感染症
(帯状疱疹)
間質性肺炎
レナリドミド 血球減少
血栓症
―― 便秘 発疹、倦怠感
サリドマイド 血栓症 末梢神経障害
眠気
便秘 発疹

 

デキサメタゾン=ステロイド系抗炎症薬の1つ。デカドロン、レナデックスなどがある MP療法=アルケラン(一般名メルファラン)とプレドニン(一般名プレドニゾロン)の併用療法

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