痛みに苦しまないためには患者さん自らの治療参加が効果的
がんの患者さんの身体と心の痛みを取り除く緩和ケア
看護福祉学部教授の
川村三希子さん
がん医療における緩和ケアの重要性が認識されるようになり、モルヒネなどの医療用麻薬も使われるようにはなっている。しかし、痛みに苦しむ患者さんはまだ少なくない。患者さんが治療に参加することで、緩和ケアはもっと効果を上げられるのではないか──。
疼痛治療は普及したが痛みに苦しむ人はいる
がんの患者さんにとって、痛みは重要な問題だ。すべての人に痛みが生じるわけではないが、がん患者さんの約7割が痛みを経験すると言われており、最近は痛みの治療が広く行われるようになってきた。北海道医療大学教授で緩和ケア認定看護師の教育に当たっている川村三希子さんは、疼痛治療の現状についてこう語っている。
「この20年ほどで、がんの疼痛治療はかなり普及しました。方法は以前から確立していましたが、それが実際に行われるようになってきたのです。使える鎮痛薬の種類が増え、副作用もコントロールしやすくなり、医療者にとって、疼痛治療を行いやすい状況が整ってきています」
痛みの治療が行われるようになったのはいいが、患者さんの痛みが十分にコントロールされているかというと、実はそうでもない。治療を受けていながら、痛みを抱えている患者さんがかなりいるという。
「がんの痛みのほとんどはコントロール可能ですが、現実には痛みに苦しむ患者さんがかなりいます。モルヒネなど医療用麻薬を含めた鎮痛薬を使い、鎮痛補助薬も使って、きちんとした治療が行われているのに、現状はそうなのです」
なぜなのだろうか──。
「医療者と患者さんが、痛みについて十分に話し合っていないのだと思います。〝痛みは医療者が取ってあげるもの〟という考えだと、主体が医療者になってしまいます。そうではなくて、患者さんも治療に加わる必要があります。医療者と患者が共同で取り組めば、痛みはもっとコントロールできるはずです」
共同で治療するといっても、患者は何をすればいいのだろう。
「痛みをどうしてほしいのか、医療者とよく話し合うことです。それから、痛みは患者さんにしかわからないので、それを正確に医療者に伝えるのは、患者さんの重要な仕事ですね。こういったことをしっかり話し合っておく必要があります」
痛みを正確に伝えるためには、患者さんは痛みを我慢してはいけない。我慢を美徳とする文化で育ったせいで、日本人はとかく痛みを我慢してしまうが、患者さんが我慢して痛みを訴えないと、薬の効果を正確に判定できず、適切な治療が行えないことがあるという。
「なぜ我慢してはいけないかを説明すれば、患者さんは理解してくれます。疼痛コントロールに関しても、きちんと説明することが大事だと思います」
説明がなされることで、医療者と患者さんの共同作業が初めて可能になるのである。
自分で対処できれば痛みの閾値が上がる
医師や看護師がそばにいるときは痛くないのに、夜中に痛くなるということがある。孤独や不安で痛みの閾値が下がるためだ。したがって、がんの疼痛治療では、患者さんの痛みの閾値を上げることも必要となる。
「緩和ケアを担当する看護師には、痛みの閾値を上げることが求められていて、患者さんの話に共感したり、気分転換を図ったりすることが有効だとされています。それから、患者さん自身の判断で薬が使えることも、痛みの閾値を上げることにつながります」
がんの疼痛治療では、モルヒネなどが使われることがある。こうした医療用麻薬は、かつては医療者がすべて管理していたが、平成18年に麻薬管理マニュアルが一部改定され、入院患者が必要最小限の医療用麻薬を自己管理できるようになった。
がんの痛みには、持続的な痛みと突発的に強まる痛みがあるが、患者が自分でモルヒネなどのレスキュー薬を持っていれば、突発的な痛みにもすぐ対処できるわけだ。
「患者さんに医療用麻薬を渡しておけるようにマニュアルが変わったのに、それを実行している病院はまだ少なく、せいぜい2割くらいでしょう。多くの病院が、現在でも患者さんには医療用麻薬を自己管理させていません。患者さん が医療に参加できる環境が整ったのに、それが生かされていないのは残念ですね」
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