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赤星たみこの「がんの授業」
【第三十三時限目】がんとセックス 人知れず悩まず、セックスについて真摯に語り合うことが大事
赤星たみこ(あかぼし・たみこ)●漫画家・エッセイスト
1957年、宮崎県日之影町(ひのかげちょう)のお生まれです。1979年、講談社の少女漫画誌『MiMi』で漫画家としてデビュー。以後、軽妙な作風で人気を博し、87年から『漫画アクション』で連載を始めた『恋はいつもアマンドピンク』は、映画化され、ドラマ化もされました。イラストレーターで人形作家の夫・新野啓一(しんの・けいいち)さんと、ご自身を題材にした夫婦ギャグをはじめ、あらゆるタイプの漫画で幅広い支持を得ていらっしゃいます。97年、39歳の時に「子宮頸がん」の手術を受けられ、子宮と卵巣を摘出されましたが、その体験を綴ったエッセイ『はいッ!ガンの赤星です』(『はいッ!ガンを治した赤星です』に改題)を上梓されました。
がんによる「不妊」の悩みを訴える人は多いのに、実際のセックスに関する悩みを公然と口に出す人はあまりいません。でも、実際に聞いてみると、セックスできるかできないかは当事者にとっては大きな悩みになっています。でも、この悩み、一体誰に相談すればいいのでしょうか?
がんの治療にあたってくれた主治医や看護師に相談する人は、私の周りではほとんどいませんでした。
病院にはカウンセラーもいたのですが、やはり相談する人はいませんでした。病院から渡されるパンフレットに、「退院後の性生活について」という項目がありましたが、それも一般的なことがサラリと書いてあるだけで、個別の悩みに対応しているとは思えません。
唯一の情報交換が、入院中に友達になった同じ病気の人と軽く話をすることくらい。これもあまり込み入った話ではなく、「恥ずかしくて相談できないよね」「そうそう」と、まるで当たり障りのないことばかり。
やはり、セックスというのはあまりにもプライベートなことなので、おおっぴらに口に出すのは恥ずかしい、だから誰にも相談できない、ということなのでしょう。
また、相談される側の主治医や病院の関係者も、日頃から命を救うことに忙殺されていますから、退院後のセックスについて相談されてもどう答えていいかわからないことが多いのではないでしょうか。
さあ、私たちはどうやってセックスの悩みを解決すればいいのでしょうか。今回は、がんとセックスについて考えてみましょう。
治療をするとセックスできなくなるか
「がんの治療をするとセックスができなくなるのではないか」
「仮にセックスができたとしても、治療前と同じようには楽しめなくなるのではないか」――がん患者さんにとって、セックスライフにまつわる不安の種は尽きません。
とくに女性の子宮がんや卵巣がん、男性の直腸がんや泌尿器系がんでは、性機能そのものが治療によってダメージを受けることも考えられます。
では、がんの治療によって、どのような性機能障害が起こるのでしょうか。また、そのための治療法としてはどんなものがあるのでしょうか。まず女性のがんから考えてみましょう。
性機能への影響が考えられるものとしては、子宮がんの手術があります。なかでも子宮全摘の場合は、腟も数センチ切除して、最上部を縫い閉じます。腟というのはふつうは10~13センチの長さがあるそうですが、縫い縮めた結果、一時的にちょっと短くなるんですね。
しかし、腟というのはとても伸縮性のある臓器なので、セックスをしているうちに腟の収縮力が回復してきて、数カ月ほどで元の感覚に戻るのだとか。
私が入院中、こんな話を聞いたことがあります。ある女性患者さんが子宮がんの手術を受けたあと、術後の説明で、主治医の先生がこう言ったそうです。
「少し腟が短くなりますが、ダンナさんが使えば伸びますから」――言われた患者さんは「あまりにも露骨!」と苦笑いしていました。先生もきっと照れ隠しでサバサバした口調にしてみたのでしょう。そうでもしないと、お医者さんにとっても、セックスの問題は口にしづらいのだと思います。
しかし、「いずれ伸びる」といっても、手術後の傷が治りきっていないうちは注意が必要です。初めのうちは痛みを感じるかもしれませんが、何度もセックスを重ねるうちに、腟の伸びがよくなって痛みも改善されるそうです。逆に、あまり長期間セックスをしないでいると、腟の伸びが悪くなってしまう危険性も。あせらず、慎重になりすぎず、主治医の先生と相談しながら、性生活を再開するタイミングを見極めることが大切です。パートナーの男性と相談して、痛くない体位を試してみるのもいいかもしれません。と、退院時に貰ったパンフレットに書いてありました。だけど、そもそも、こういうことって主治医の先生にすぐ相談できますか? 相談する相手、相談の仕方は、またあとで考えましょう。
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