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リンパの会 代表/金井弘子
がん治療の後遺症「リンパ浮腫」を知る
かない ひろこ
1997年、乳がん手術の際にリンパ節郭清を受ける。99年にリンパ浮腫を発症し、治療の情報を求めて「リンパの会」に入会して以来会の活動に携わる。03年、同会代表代行を経て04年4月に代表に就任した。
たわら もえこ
大阪外国語大学卒。サンケイ新聞記者を経て1965年より評論家・エッセイストとして活躍。95年より群馬県赤城山麓の「俵萠子美術館」館長。96年乳がんで右乳房切除。01年11月、「1・2の3で温泉に入る会」発足。
俵 日頃から“リンパ”という言葉は耳にしますし、“リンパの免疫療法”などもよく聞きますが、『リンパ液とかリンパ節がどういう役割を担っているのか』ということがよく分からないんです。
金井 血液は心臓から動脈を通って身体の隅々に栄養を届け、静脈を経由してまた心臓に戻るんですね。その転換点が毛細血管で、ここで水分とタンパク成分が各組織に取り込まれて、使われた後の水分は静脈に入るんですが、タンパク成分はリンパ管に入るんです。
そして各リンパ節を通って最終的には首の根元辺りで静脈に合流して心臓に戻ります。このリンパ管に入っている液体がリンパ液です。
俵 つまりリンパ液は身体に栄養分として使われた後のタンパク成分ということですか?
金井 そうですね。
俵 そうするとリンパ浮腫というのはどういう状態をいうのですか?
金井 主にはリンパ節を郭清することによってリンパの流れが悪くなり、血管以外の皮下組織に老廃物のタンパク成分がよどんでしまった状態ですね。それだけではむくみは起きないんですが、タンパク成分は水分を引き寄せる性質をもっていますので、濃度が高くなればなるほど水分が増えて腫れてくるわけです。
俵 リンパ郭清手術をした患者の何パーセントくらいにリンパ浮腫が発症するんですか?
金井 だいたい2割程度と聞いています。
俵 けっこう多いんですね。ところで、あなたはどこに浮腫が出たのですか?
金井 手術後2年半ぐらい経ったときに手にでました。びっくりして先生にみせたら「リンパ浮腫だ」と言われましたが、治療するほどのことはないって。
痛くも痒くもないので放っておいたら指がだんだん腫れてきたので再び先生の所に行ったら、『うちではどうしたらよいか分からないからリンパ浮腫治療の知識がある看護師さんのいる病院に行きなさい』と言われました。
俵 看護師さんのいる病院?
金井 ええ、そうなんです。
俵 いつも不思議に思うんですけど、なぜリンパ浮腫の専門の病院はないのでしょう。リンパ浮腫についての専門医がいないということですか?
金井 いないことはないですが、とても少ないのが現状です。それどころか手術した先生本人がリンパ浮腫に関心がないと、どこにリンパ浮腫の専門医がいるのか知らないケースが多いんです。
相談に行っても『大丈夫だよ、大したことないよ。患部を上げていれば腫れは引くよ』とか言う先生もいるんです。それを信じて放っておくと大変な状態になることが多いです。
最初は腫れたりひいたりを繰り返すので『そのうち腫れは治まるだろう』と思っているとあるときバンッと腫れたまま戻らなくなってしまう。その頃になると皮膚が変性してしまって皮膚のバリアーが弱くなってくるんです。そうなってしまうと大変ですので、その前に適切な措置をとらなければなりません。
俵 そうは言っても医者が分からないのだからどうしようもないですね。
怖い合併症「蜂窩織炎」とは
金井 症状がひどくなって困るものの一つに蜂窩織炎(ほうかしきえん)があります。
俵 蜂窩織炎って何ですか?
金井 簡単に言えば皮下組織の炎症です。血管以外の皮下組織にタンパク成分や脂肪などが過剰に溜まるので循環が悪くなって、ちょっとした怪我とかわずかな細菌が侵入しただけで感染を起こしてしまうんです。
蜂に刺されたような赤い斑点ができて患部全体が真っ赤に膨れ上がり、高熱や悪寒などを伴います。リンパ浮腫も重症化するとリンパ液が毛穴からしみ出てきたりして、手はまだいいんですが、下半身だとお小水をもらしたようになってしまうんです。
俵 そんな状態でも医者は病気ではないと言うのかしら。
金井 結局リンパ浮腫全体を知らない先生も多いのではと思います。パンパンに腫れて40度の熱があっても『悪いものがたまっているだけだから』って抗生物質をどんどん投与するだけの医者もいますしね。
俵 知らないなんてことはないでしょうけど、相手にしてくれないわけですね。蜂窩織炎にならないための予防法などはありますか?
金井 一言で言うのは難しいのですが、虫刺されや直射日光から皮膚を守ること、家事でのちょっとした怪我に注意すること、皮膚を清潔に保つことなどに気をつけます。土いじりも注意が必要です。
俵 私は陶芸をやるので土をいじったり粘土を揉んだり、常に土に触わっている仕事なんです。手術が終わった後に先生にそれを言ったら『感染しやすいですから、くれぐれも怪我をしないように。できたら手袋をしてやるように』と言われましたけど、今思えば蜂窩織炎の心配だったんですね。
でも陶芸をやるのにそんなことをしてはいられないですから、自分の思うようにやってきて8年半が経ちましたが、幸いにリンパ浮腫にも蜂窩織炎にもならずにこれました。
金井 それはラッキーでしたね。土の中にいる細菌で蜂窩織炎をおこす方が多いんですよ。
俵 そうらしいですね。医者からすれば困った職業だったでしょうね。ですから私もリンパ郭清をするのはいやだったんです。
金井 でもいろいろな患者さんを見ていますと必ずしもリンパ節を取った人だけがリンパ浮腫になるわけではないんです。
俵 それはどういうことですか?
金井 放射線でなる方もいるんです。リンパ節を取らなかったからと安心して、まったく関心がないのも怖いですよ。放射線をあてたらリンパの流れが悪くなってリンパ浮腫になる人はいますから。生まれつきリンパ管の発育が悪くて起きる場合もありますが、約8割は手術や放射線照射によるリンパの損傷が原因です。
マッサージは強くてもダメ、弱くてもダメ
自身も勉強する必要があります」と金井さん
俵 では、リンパ浮腫になってしまったら、どんな治療を受けたらいいのですか?
金井 残念ながら現在はこれといった治療法はなくて、これ以上悪化させないためにスリーブストッキングをつけるのが一番のケアです。足の場合は、立ちっぱなしの姿勢を長く続けない、就寝時は手足を上げる工夫が必要です。他にはリンパマッサージをするなど、毎日のケアが大事になります。
俵 スリーブは患部を締めつけるんですか?
金井 それ以上悪化させないため、そしてマッサージ等によって細くなった状態を維持するためにつけるんです。マッサージと言っても自己流でやったり、ふつうのマッサージをやってもらったりすると、かえって悪化したりしますので、専門のリンパセラピストにやってもらうのが理想です。
俵 そのリンパセラピストというのは、リンパのマッサージをする人ですか?
金井 そうです。腹の深部や鎖骨下にリンパ液が集まるところがあって、そこをまず活性化してリンパの流れを良くするんです。
俵 専門の病院に行けばリンパセラピストがいるんですね?
金井 ごく少数の病院にはいます。ですがまだまだ圧倒的に少ないのが現状です。マッサージの学校などで養成をしてはいるんですが……。
俵 何だかないないづくしですね。“マッサージが大事だ、でも自分でやってはいけない、ふつうのマッサージ師でもダメ、病院でもやってくれない”となると、どうしたらいいんでしょう。
金井 それは大きな問題の一つですね。このマッサージは皮膚にあたる手の感じが難しく強すぎてもダメ、弱すぎてもダメなんです。何度かセラピストに治療を受けて、自分でもマッサージするのが良いですが、それが叶わなければ、マッサージの方法を記した本などがあるのでそれを購入して、自分で行う場合はそれを毎日見ながら行うことが理想です。
俵 病院でマッサージをやらないなら、いったい何をするのですか?
金井 病院ではまず患者にあったスリーブやストッキングを探します。もし蜂窩織炎になっていたら抗生物質など薬が処方されます。スリーブやストッキングにはサイズ、種類がたくさんありますし、適したスリーブストッキングにはマッサージ効果もあるんですね。でも逆に自分に適さないと効果がなかったり、きつすぎて外してしまったりしますから、スリーブ、ストッキング選びはとても大切です。
俵 治療はなく日常の生活の中で予防、症状の軽減を図るしかないわけですね。
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