凄腕の医療人 坂東裕子

乳がんはしっかり治療、新しい乳房で患者さんに笑顔を!

取材・文●祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2013年6月
更新:2013年9月

  

坂東裕子 ばんどう ひろこ 筑波大学医学医療系乳腺甲状腺外科学准教授
1996年筑波大学医学専門学群卒業。都立駒込病院で外科、乳腺外科研修およびトランスレーショナルリサーチについて学ぶ。2002年ドイツ生科学研究所客員研究員。2004年東京医科歯科大学大学院博士課程修了。都立駒込病院外科医員を経て、2005年に筑波大学大学院人間総合科学研究科乳腺甲状腺内分泌外科講師。2012年、MD アンダーソンがんセンターへ短期留学。2013年より現職

欧米では、一般的な乳房再建だが、日本ではまだ少数派。筑波大学医学医療系乳腺甲状腺外科学准教授の坂東裕子さんは、形成外科と連携して乳房再建に取り組んでいる。「乳がんの摘出手術より、乳房再建をしたときの方が患者さんは笑顔になるんです」と語る。

乳がん手術から目覚めたら新しい乳房を

広範囲にわたって石灰化がみられるため、乳房の全摘手術が行われた。全摘にかかる時間は1時間~1時間半ほど

乳房温存療法が普及したとはいえ、摘出後の乳房の変形が予想以上に大きかったり、乳房全摘術を受けなくてはならない場合もある。こうした患者さんに大きな福音となっているのが、乳房再建術だ。

今日、乳房全摘手術と同時に乳房再建を受けるA子さん(48)もそうだ。昨年、検診をきっかけに、右乳房に多数の石灰化したがんが見つかった。今は、化学療法でがんを縮小させて温存に持ち込むケースも多いが、もともとの病変が大きかったり、乳房の広い範囲に広がっている場合はそれも難しい。全摘手術しか方法がないと知ったA子さんは、自ら情報を収拾し、乳腺外科と形成外科が連携して乳房再建に取り組んでいる筑波大学附属病院を選んだのである。

午前9時。手術が始まった。坂東さんによると手術は「がんの摘出手術が1時間~1時間半、引き続き再建に5~6時間かかる予定」だそうだ。

取り出されたセンチネルリンパ節

まず、坂東さんが乳首の周囲にメスを入れる。A子さんの場合、乳首の中まで石灰化があるので、乳首も摘出する。さらに、乳房に6cmほど切開を入れ、そこから乳房の皮膚と内部の乳腺組織をはがしていく。ある程度、組織をはがしたところでガイガーカウンターの端子を近づけると、ピーピーと音がする部位があった。放射性同位元素が集積したセンチネルリンパ節だ。A子さんの場合、センチネルリンパ節は2個あった。これを、ただちに迅速病理診断に送る。

さらに、乳腺組織を下の筋肉から少しずつはがしていく。このような作業を経て10時20分、脂肪と一塊になった乳腺組織が摘出された。あとには、空っぽになった乳房の皮膚だけがきれいなまま残された。すぐに摘出した乳腺組織をマンモグラフィで検査して石灰化の拡がりを確認し、安全のために内側の断端が少し切り足された。これで、摘出手術は完了。摘出した組織は550gあった。あとは病理の結果待ちだ。幸い、センチネルリンパ節に転移はなかったのでリンパ節郭清の必要もなく、摘出手術は無事終了した。

ここで、手術は坂東さんから再建を担当する形成外科の医師にバトンタッチされる。穿通枝皮弁法(遊離皮弁移植法)という方法で、下腹部の脂肪組織を、乳腺組織を摘出したあとの乳房の空隙に移植する。A子さんが目覚めたときには、すでに新しい乳房が完成しているわけだ。

センチネルリンパ節=乳房のがん細胞が、リンパ管を通って最初に流れるセンチネルリンパ節を検査し、ここに転移がなければ、その先のリンパ節にも転移がないと判断される

同時再建が主流に

坂東さんによると、「私たちの施設では、乳房全摘術を受けた人でも乳房再建まで受ける人は2~3割」なのだそうだ。欧米の施設では7~8割が再建を受けるところがあるのと比べると、かなり低率だ。

日本では乳腺外科と形成外科が連携して手術を行っているところもまだ少ない。茨城県下では、筑波大学附属病院のほか、ごく少数の施設に限られるという。

再建手術を受けるか受けないか。患者さんにはそれぞれ思いがあるが、坂東さんは「受けるつもりがあるならば、同時再建のほうがいいと思います。きれいに再建ができるし、手術をするのも1度ですみますから」と語っている。

乳がん手術から5年、10年と経っても乳房再建は可能だが、美容的な意味では同時再建が適しているという。実際に、今はほとんどが同時再建だそうだ。

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