手術の効果は不確かな部分も。化学放射線療法に期待
非小細胞肺がん3期の治療法はどれがいいか?
久保田馨さん
肺がん全体の約8割を占める非小細胞肺がんのなかで、治療が難しいといわれるのが3期のがんです。
がんの進み具合によっては治療法が異なり、その見極めが難しいのです。
患者個人にとって、最も適しているのはどんな治療なのか、メリット・デメリットを十分に理解したうえで治療法を選択したいものです。
リンパ節転移が3期のポイント
[非小細胞がんの治療方針]
病期 | 標準治療法 |
1 期 | 手術±化学療法 |
2 期 | 手術+化学療法 |
3A 期 3B 期 | 化学放射線療法±手術 |
化学放射線療法 化学療法 | |
4 期 | 化学療法 |
肺がんはタイプの違いによって、小細胞がんと非小細胞がんとに大別され、そのうち非小細胞がんは、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんに分かれます。比較的早期のがんである1期、2期、局所進行期である3期、進行期の4期とがあり、病期によって治療法は異なります。
3期の状態と治療法について、日本医科大学化学療法科部長の久保田馨さんは、次のように解説します。
「遠隔転移はなく、悪性の胸水や心嚢水(心臓の周囲に水がたまること)、胸膜への播種(腫瘍が胸腔内に散らばること)はないが、がんが胸壁や横隔膜、縦隔、肺の中などに広がっていて、肺門部(肺の入口の太い気管支)のリンパ節にも転移している場合です。
または、がんの大きさや広がりに関係なく、縦隔のリンパ節に転移していると3期に分類されます。胸水や心嚢水、遠隔転移を起こしていれば4期になります」
縦隔とは、左右の肺を縦に隔てている部分のこと。ここには心臓とか気管、大動脈、神経、免疫に関係する胸腺、食道などの重要な臓器があります。そこにまでがんが広がっているか、縦隔のリンパ節に転移していれば3期ということになります。
3期はさらにAとBに分れていますが、その違いはどのようなものなのでしょうか。
「たとえば、右の肺にできたがんで、同じ右の縦隔のリンパ節への転移なら3A期ですが、反対側の左の縦隔のリンパ節にも転移していたり、鎖骨上のリンパ節に転移があると3B期です。より進行したがんと位置づけられるわけです」
この点では、国際的な肺がんの病期分類が2010年より一部変更になり、10月には日本肺癌学会の『肺癌診療ガイドライン』が5年ぶりに改訂されていますので、あらためてチェックが必要です。
術後にリンパ節転移が明らかになることも
転移の有無、転移があればどこまで広がっているかによって、治療内容は大きく変わります。
3A期なら、手術、放射線療法、化学療法のいずれかを組み合わせた治療が行われます。転移が進んだ3B期だと、手術の適応にはならず、化学療法か放射線療法、あるいは両方の併用療法が選択肢となります。
転移の有無は主にCT検査で調べますが、手術によって完全にがんを取り除くことができる3A期と診断され、なおかつ患者さんの心臓や肺の機能、あるいは重い合併症がないなど、手術に耐える体力があると判断されれば手術も選択肢となります。
ただし、術前検査にもとづく診断は、手術時の病理診断の結果によっては、見直しが必要になるケースがあり、ここに3期の診断の難しさが浮かび上がっています。久保田さんは次のように語ります。
「転移があるとリンパ節は腫れてくるので、一定の大きさになると転移が疑われます。そこで治療前にCTで調べてリンパ節が腫れているため転移と判断したところが、実際に手術してみると転移していなかったということがあるし、逆のケースもあります。たとえば、リンパ節転移がないと判断され、1期と診断されて手術をし、同時にリンパ節郭清をして病理診断を行うと、リンパ節の中に転移が見つかることがあります。すると手術後の病期は3期になってしまいます」
リンパ節転移がなくて手術した場合、5年生存率(治療開始から5年間生存する割合)は1期で約70パーセント、2期では約50パーセントといわれます。ところが、リンパ節に転移していて、手術で治すのは不可能と判断された3期の患者さんでは、放射線療法と化学療法を行っても5年生存率は15~20パーセントに下がってしまいます。
「リンパ節転移があると、手術のみの治療での効果は低下し、予後もかなり変わってきます。前述のような手術によってリンパ節転移が明らかになった患者さんの場合では、シスプラチン(*)を含む術後化学療法を行うことが推奨されています。このように、治療法が変わってくるので、リンパ節転移の有無や状態をはっきりと確認することがとても大事です。それに応じて、今後の治療をどうしたらいいか、患者さんの意思決定が必要になってきます」と久保田さんは語ります。
*シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ
実は明確でない「手術の意義」
リンパ節転移がある3A期では手術が適応になる場合がありますが、問題となるのは転移の広がり具合。「リンパ節の外に転移が広がっているなら手術の適応はまずないといえる」と久保田さん。
「転移の個数が1個だけで、リンパ節の中にとどまっているなら、手術の適応も考えられますが、成績はよくありません。リンパ節転移があれば手術の適応はないと考えている医師も多くいます」
3期の非小細胞肺がんに対する手術の意義を検討した海外での比較試験がいくつかありますが、予後についての差はみられていません。
アメリカでは、化学療法と放射線療法の同時併用療法に、手術を加えた場合を比較するために、化学放射線療法だけの群と、化学放射線療法を行ったあと手術した群とを比較した試験が行われましたが、結果は生存期間に差はないというものでした。
この試験では治療関連死が、化学放射線療法のみの場合には2パーセント程度のところが、化学放射線療法のあとに手術した場合の治療関連死が8パーセントにも達していました。この結果から久保田さんは「術前に化学放射線療法を行うと、かえって手術の危険が増す可能性も否定できないので要注意です」と指摘しています。
いずれにしろ手術の意義は明確ではなく、それなら体の負担の少ない放射線療法と化学療法が勧められることになります。
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