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知って得するさまざまな制度(1) 高額療養費

文:山田由里子 社会保険労務士
発行:2005年4月
更新:2019年8月

  

病院の窓口で高額の医療費を払った場合、ある一定の基準額を超えていると払い戻してくれる制度です。振り込まれる間までのつなぎ資金として高額療養費を前借りすることもできます。

どんな制度か

現在の健康保険では、医療を受けた場合その費用の3割(注1)を本人が病院の窓口で支払うことになっています。風邪やちょっとしたけが程度ならば大した負担にはなりませんが、これが入院や手術となると自己負担額も多額になり家計を圧迫することになります。自己負担額が高額となり一定の基準額を超えた場合に、その基準額を超えた分の払い戻しを受けることができるのが高額療養費の制度です。

高額療養費は、暦月1カ月(1日~月末)の診療で医療機関別、診療科別、入院・通院別に計算されます。計算の対象となるのは保険診療分についてだけなので、入院時食事療養費や差額ベッド代など保険給付の対象でないものは高額療養費の対象とはなりません(領収書には保険診療分と保険適用外分の小計が別々に記載されています)。

注1:70歳以上の場合の窓口負担は1割または3割

年齢と所得別の基準がある

高額療養費の基準額は、70歳未満と70歳以上に分かれ、さらにそれぞれのなかで、一般の人、上位所得者、低所得者によって異なる基準が設けられています。上位所得者ほど納める健康保険料は多いのですが、その分多くもらえるというわけではなく、反対に一般の人より高額療養費として支給される額は少なくなります。これは所得再配分機能といって簡単にいうと、より困っている人に手厚い給付をするという保険の考え方によるものです。

■高額療養費の自己負担限度額
高額療養費の自己負担限度額
上位所得者とは、国民健康保険の場合は基礎控除後の総所得金額が600万円を超える世帯の人
一定以上所得とは、課税所得が145万円以上の70歳以上の方がいる場合
住民税非課税世帯Ⅱとは、世帯全員が住民税非課税の場合
住民税非課税世帯Ⅰとは、世帯全員が住民税非課税の方であり、かつ、世帯全員の各所得が0円である場合

どのラインでどの所得者層に振り分けられるのかは、加入する健康保険が社会保険(会社に勤務している人やその家族が加入する)なのか国民健康保険(自営業者などが市区町村を窓口に加入する)なのかで違います。社会保険では70歳未満の場合、標準報酬月額が53万円未満のときに一般の扱いとなり、標準報酬月額が53万円以上になると上位所得者となります。国民健康保険の場合は、基準控除後の総所得額が600万円を超えると上位所得者になります。

70歳以上の世帯の場合は、現役世代の平均的収入以上のある世帯(課税所得145万円以上)と一般の世帯、住民税非課税の低所得世帯とに分かれます。

標準報酬月額=健康保険の保険料や給付の基準となる仮の給与額。通常4・5・6月に支払われた給与総額の平均値を39段階に分けられた標準報酬月額表にあてはめて決定される

どのくらい支給されるか

高額療養費として支給される額は、医療費(保険診療分)のうち自己負担限度額を超えた差額です。表の計算式に当てはめて算出すると、例えば、自己負担3割で45万円窓口で支払った場合、最終的な自己負担額は9万2430円になります。

■70歳未満の方の高額療養費の1例
70歳未満の方の高額療養費の1例
上位所得者の場合、最終的な自己負担額は16万円、住民税非課税世帯は3万5400円

70歳未満世帯の場合は、同一月に病院窓口で支払った金額が8万100円を超えているかどうかが最初の基準になります。これは個人別、医療機関別、入院、通院別(通院の場合は診療科ごと)にカウントしますが、それぞれで2万1000円を超えた分は合算することができます。たとえばある月に妻が入院し自己負担分7万円を支払い、その同じ月に夫が通院で3万円の自己負担があったときは、どちらも2万1000円を超えているので合算して10万円とすることができるのです。

70歳以上の世帯や住民税が非課税の世帯では自己負担額の上限はこの基準より低く設定されています。また、高額療養費の支給が年3回以上あったときは、4回目から自己負担限度額が低くなります。たとえ1回の申請で支給される金額が1000円に満たないような場合でも、多数該当となるかどうかの1回にはカウントされます。少額でも面倒くさがらずに申請をするようにしましょう。

申請の方法

申請の方法ですが、国民健康保険に加入しているときは市役所の国民健康保険担当窓口へ、会社勤務の場合は、会社の健康保険の担当者に領収証を添えて申し出てください。市区町村の国民健康保険の場合、自治体ごとに扱いはさまざまです。手続きを促す通知が送られてくるところもあれば、自分から申請をしなければ給付されないところもあります。該当となるかどうかがわからなくても、まずは国民健康保険担当窓口に問い合わせてみることをお勧めします。

大企業に多い健康保険組合では自動的に給付されるところが大半です。しかし同じ会社勤務でも政府管掌健康保険組合の場合は、自分で申請しなければ高額療養費は支給されません。領収証は必ずとっておいて医療費が高額となったときは会社に申し出ましょう。過去の申請漏れも2年前まではさかのぼって認めてもらえます。

政府管掌健康保険=社会保険庁が管理運営する会社のための健康保険のこと。他に健康保険組合が管理運営する健康保険に加入する会社員もいる

貸付制度、受領委任払制度

高額療養費は、申請して実際に振り込まれるまで3カ月ほどかかります。その間のつなぎ資金として、高額療養費を前借りするかたちの高額療養費貸付制度を利用することができます。高額療養費の申請と同時に手続きすると1~2週間で、支給されると見込まれる高額療養費の8割相当額の貸付金が振り込まれます。

また、国民健康保険に加入している場合には、高額療養費として支給される額を国民健康保険から直接医療機関に支払う受領委任払という制度注2)もあります。この制度が利用できると病院の窓口では自己負担分だけを支払えばいいことになります。どこの市区町村にもあるという制度ではなく利用できる条件も自治体によって違います。まずは、医療費について相談することから始めてみましょう。

注2:自治体によっては、貸付制度という名称の場合もある

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