子宮肉腫の疑い。手術に踏み切れず、しばらく様子を見たい
総合病院の検査で、「子宮筋腫です。子宮肉腫の疑いもあります」と言われました。腫瘍は大きくありませんが、手術を勧められています。手術を受ければ、子宮筋腫と子宮肉腫は治ると考えてよいのでしょうか。手術後の身体への影響や、仕事の関係などを考えると、なかなか手術には踏み切れません。できれば、手術は回避して、しばらくの間、様子を見ようと思っています。
(53歳 女性 宮城県)
A 筋腫の経時的な変化、血液やMRIなどから判断する
婦人科・第一病棟部長の
関口 勲さん
子宮の筋肉から発生する腫瘍には、子宮筋腫と子宮肉腫があります。子宮筋腫は良性で、肉腫は悪性です。子宮筋腫は、多発性のことが多く、卵巣から分泌されるエストロゲン(女性ホルモン)により増殖します。そのため、閉経に向かってだんだん大きくなり、閉経直前が1番大きくなります。卵巣機能が消失する閉経を過ぎると、子宮筋腫は縮小してくるのが一般的です。
これに対して、子宮肉腫は、単発性のことが多く、10センチ以上と大きなものが多い傾向があります。エストロゲンとは関係なしに増殖あるいは転移しますから、閉経後も腫瘍が大きくなります。
卵巣の機能を一時的に止める薬のLH-RHアナログ「リュープリン」(一般名リュープロレリン)「スプレキュア」(一般名ブセレリン酢酸塩)による治療をしても縮小せず、逆に増大する腫瘍は肉腫の可能性があります。
子宮筋腫も子宮肉腫も子宮の筋肉の中に発生する腫瘍なので、手術前の細胞診、組織診などでは診断できないことが一般的です。
子宮肉腫では血液検査でLDH(乳酸脱水素酵素)が異常高値を示すことがあり、1つの診断根拠になりますが、全例が異常値を示すわけではありません。子宮筋腫と子宮肉腫の鑑別にはMRI(核磁気共鳴映像法)検査が有用とされていますが、それでも完全な診断はできません。手術前には、良性か悪性かはわかりません。それが、「子宮肉腫の疑いもあります」という医師の言葉です。
一般的に、子宮筋腫が肉腫に変化することはないと考えられています。例えば、30~40代で子宮筋腫が見つかって、閉経まで長期的に経過観察して、閉経を過ぎて腫瘍が小さくなれば、「もう大丈夫でしょう」となります。子宮肉腫の疑いが持たれたとしても、子宮筋腫の可能性が高いと思います。
ところが、相談者のように、突然、「子宮が大きい。子宮筋腫か肉腫かわからない」と言われた場合が問題となります。子宮筋腫の経時的な変化、とくに閉経との関連、あるいは血液検査所見、MRI所見などを参考にして子宮筋腫か肉腫かの臨床的判断をすることになります。もし、すぐに手術に踏み切れないのであれば、主治医と相談し、経過観察をすればよいと思います。その場合、最初は1~3カ月おきに通院して経過観察をし、大きさや血液検査などに急激な変化がなければ、経過観察の期間を徐々に延長するとよいと思います。
手術前に子宮筋腫と診断されて、手術で摘出された子宮で、肉腫である頻度は米国のデータでは1パーセント以下と言われています。肉腫は大変稀な腫瘍ですが、肺や肝臓などへの血行性転移があるので、定期的な検査が必要です。
子宮肉腫に行われる単純子宮全摘術は、子宮を取るだけなので術後の後遺症はありません。入院期間は、10日から2週間。53歳であればそろそろ卵巣機能も消失するところなので、卵巣を摘出しても大きな問題はないと思います。
もし、卵巣を残したいというお気持ちが強いのであれば、主治医に、「開腹時に異常が認められなければ、卵巣を切除しないでほしい」とお伝えすればよいと思います。