腫瘍内科医のひとりごと 98 「がん温熱療法と温泉」

佐々木常雄 がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
発行:2019年2月
更新:2019年2月

  

ささき つねお 1945年山形県出身。青森県立中央病院、国立がんセンターを経て75年都立駒込病院化学療法科。現在、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長。著書に『がんを生きる』(講談社現代新書)など多数

寒い日に、温かいお話をします。

がんが熱に弱いことは昔からわかっていました。がん細胞は42℃以上、43℃になると壊れていきます。以前、私たちは、なかなか効果が得られない進行胆のうがんに対して、温熱・化学・放射線の3者併用と化学・放射線の2者併用とを比較しました(無作為比較試験ではない)。

実際には、胆のうの部位にサーモトロンRF-8という機器を外から当て、病巣部にはセンサー針を挿入し、42~43℃、40分加温を確認し、これを週1回、放射線治療直後に、化学療法の点滴と同時に行いました。

その結果、3者併用群の平均生存月数は9.0±6.4カ月で、2者併用群の5.5±4.4カ月より有意に長かった(p<0.01)という結果でした()。

しかし、時間がかかることでの患者さんの負担、そして放射線をより有効に照射できる強度変調放射線(IMRT)治療などの装置が開発されたことなどから、現在は私たちのところでは温熱療法は行っていません。

全身の温熱療法は、深部まで温めるために全身麻酔等での患者さんの負担など問題点があり、一部の施設でのみ行われているようです。

温熱療法の局所・領域加温に対しては、保険適用があります。しかし、温熱療法は、日本ではがん治療における標準治療としての位置づけが明確にされてないこともあり、それほど普及してはいません。また、補完代替療法的な治療として、いろいろな方法で行われている現実もあります。

日本ハイパーサーミア学会では、温熱療法のさらなる普及や診療レベルの均てん化のために、テーマとして「エビデンス(科学的根拠)に基づく温熱療法」を掲げ、「診療ガイドライン」の存在が不可欠であるとして、現在作成中のようです。

初夏に玉川温泉に行ってみて

玉川温泉の源泉「大噴」

体を温めるということから、温泉ががんに効果があるのではないか? 私は以前、「末期がんが治った」などで話題になった秋田県の玉川温泉()を見に行ったことがあります。駐車場の車ナンバーは全国各地から来られていることを示していました。

あのときは初夏でしたが、ごつごつした岩の間からもうもうと水蒸気が湧き、硫黄の匂いなど、それなりの雰囲気がありました。ここの温泉は酸性の強いのが特徴のようでした。

ところが、温泉につかる方よりも岩盤浴ができるテントに向かう方が多くみられました。岩から微量の放射線が出るらしいのです。私にはこれががんに効くとは考えられないのですが、茣蓙(ござ)やシートを包んで持ち、あるいは肩に掛けてテントのほうに向かう人、戻ってくる人の列がありました。

私は、この無言の列を遠くから眺めていましたが、楽しんでおられるのなら良いのだが、悲壮な気持ちの方もおられるのではないかと複雑な思いでした。

温泉と言えば、評論家の俵萌子さんの「1・2の3」を思い出します。乳がんで乳房を切除した女性が、7~8人一緒になって「1・2の3で温泉に入る会」なのです。がん対策の会議でご一緒させていただきましたが、とても楽しそうに話して下さいました。

私が卒業した小学校の近くには〝不老ふ死温泉〟という、嘘に決まっている名前の温泉があります。そこは、波打ち際にあり、日本海に沈む夕日がとてもきれいです。温泉はリラックス、楽しさ、笑いで、心のがん治療と思います。

神澤輝美他 胆道14巻4号354~360(2000)
なぜ玉川温泉に全国からがん患者が集まるのか 鎌田實の癒し探索ルポ “奇跡の湯” 玉川温泉の至福

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