腫瘍内科医のひとりごと 127 コロナ流行下のがん治療 この1年半

佐々木常雄 がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
発行:2021年7月
更新:2021年7月

  

ささき つねお 1945年山形県出身。青森県立中央病院、国立がんセンターを経て75年都立駒込病院化学療法科。現在、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長。著書に『がんを生きる』(講談社現代新書)など多数

コロナ流行が、もう1年半以上にもなりました。

不要不急の外出を控えるように言われたためか、がん検診者数が昨年から激減しており、がんが進行してから見つかる方が増えるのではないかと心配されています。また、がん患者さん自身の治療においても、病院への通院に不安を感じておられる方が多くみられます。

がん拠点病院、地域の中心的病院は多大なベッドと人手、労力をコロナ診療に向けなければならないことが続いています。このことは、クラスターなどコロナ流行の起こった地域や個々の病院によっても大きく違っているようです。

この1年半のがん治療はどうであっただろうか? その治療がしっかりと行えたのだろうか?

コロナ感染リスクを考慮して化学療法が変更される例も

約15年前から、がんの診療に関わる学会では、それぞれのがん種について、新しい情報を取り入れ、改訂を繰り返しながらエビデンス(科学的根拠)に基づいた推奨治療法を、「診療ガイドライン」として公表してきました。

例えば、「大腸癌治療ガイドライン」では、大腸がんステージⅢにおいて、手術後の再発予防のための補助化学療法は、欧米ではオキサリプラチンを併用した化学療法が推奨されています。日本では、欧米と比べて手術成績そのものが良好であることから、オキサリプラチンを併用したFOLFOX療法、CapOx(XELOX)療法のほかに、カペシタビン療法、UFT+LV療法、S-1療法などの内服治療も推奨されています。

また、再発リスクの高い症例ではオキサリプラチンを併用した化学療法を行うことが多いのです。これらの化学療法を行うことで、再発を抑制する効果があり、さらに生存期間の延長が科学的に証明されています。

日本癌治療学会、日本癌学会、日本臨床腫瘍学会(3学会合同作成)では、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とがん診療について――医療従事者向けQ&A 改訂3版 2021年2月2日更新」として以下のことを公表しました。

Q&A 12)大腸がんステージⅢの補助化学療法は行うべきですか? の問いの答え。

「過去14日間の抗がん剤治療とCOVID-19感染の重篤な影響との強い関連性が報告されており、化学療法による免疫抑制の状態はCOVID-19が重篤化する危険があり、COVID-19の治療薬がない現状では、根治術が行われているステージⅢ大腸がんに対して補助化学療法は積極的には推奨されません。しかしながら、十分なエビデンスがない現状ではがん薬物療法およびCOVID-19に関した個々人におけるリスク・ベネフィットを勘案した上で治療決定を行う必要があります。なお、補助化学療法を行う場合は、投与期間を短縮したり、経口抗がん剤を優先したり、レジメンを工夫することが必要です」

このことについて、ある腫瘍内科医にたずねると「副作用などを考えて、なるべく内服で……」と曖昧な返事でした。

もちろんCOVID-19に感染しない、感染しても重篤化させないことが大切です。それにしても大腸がん補助化学療法は、各病院によって違ってきているのではないだろうか? とても気になりました。

ワクチン接種が行き渡った後の推奨治療を検討することにおいても、実際にコロナ流行下で、各種のがん治療はどう行われてきたかをここで検証しておく必要があるように思いました。

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