腫瘍内科医のひとりごと 131 コロナ時代のがん薬物療法

佐々木常雄 がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
発行:2021年11月
更新:2021年11月

  

ささき つねお 1945年山形県出身。青森県立中央病院、国立がんセンターを経て75年都立駒込病院化学療法科。現在、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長。著書に『がんを生きる』(講談社現代新書)など多数

Bさん(55歳 男性 肺がん)から、電話での相談です。

「近所の同じ年配の方が亡くなったのですが、詳しくは聞けないのですが、どうもコロナ感染だったみたいです。私は肺がんで、妻と2人暮らしです。外来で分子標的薬治療を受けていますが、がんは落ち着いていて、悪くなってはいないようです。ワクチン接種は2回受けました。もちろん3密は避けています。コロナは少し下火になっていますが、このまま肺がんの治療を続けて良いのかとても心配です」

1人だけのコロナ自宅療養は危険

COVID-19感染で、国民の生活様式は一変しました。

これまで接触感染、飛沫感染と言われてきましたが、空気感染の可能性も高いようです。過去に空気感染とされた感染症は3つしかありません。麻疹(はしか)、水痘、結核です。空気の流れ、換気がとても大切です。患者は、空気が流出しない陰圧の病室に入院させます。

COVID-19感染者が急増したとき、国や都では、感染したとわかった場合は自宅療養と言われました。しかし、たとえ食事、トイレ等を別に分けることが出来たとしても、家族内感染を防ぐのは容易ではありません。

また、COVID-19感染は、肺炎だけではなく、血栓症などを起こすことがわかっています。脳や心臓にそれが起こった場合は、急死する可能性があります。朝に「大丈夫」と診断されても、夕には亡くなっている場合がありうるのです。1人だけでの自宅療養は危険で、助かる命が助からないことになるのです。

感染者を収容できる、いわゆる野戦病院のような施設を用意することは、たとえ無駄だったということになっても、死亡者を減らす意味で国の大切な責務です。

蔓延期のがん薬物療法の知見が得られる

この時期にがんと診断され、ましてがんの薬物療法(抗がん薬、分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害薬、ホルモン薬)を行わなければならないのはとても大変です。

コロナ禍の下での約2年間、薬物療法について、世界ではいろいろな知見が得られ、蔓延期の薬物治療はどうあるべきかが専門学会で検討されています。

肺がん領域でも、たくさんの臨床経験からの検討があります。

COVID-19感染と診断される前30日で、抗がん薬治療を行っていた場合は、重症化との関連はみられなかったが、死亡リスクが高かった、とのメタ解析の報告があります。

COVID-19診断前30日で、分子標的薬、あるいは免疫チェックポイント阻害薬を使用していた場合のメタ解析では、重症化・死亡リスクの増加はなかった、との報告もあります。

これらの報告から、蔓延期での抗がん薬治療は、免疫細胞への影響を考慮し、積極的なG-CSF製剤(骨髄中の好中球の増殖を促進する)の使用を検討すべきである。

また、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬では、できるだけ通常通り治療続ける、また長期に奏効している場合は、治療間隔をあけることを検討することは可能であるとしています。

また、もしCOVID-19に感染してしまった場合のがん薬物療法は、原則として休止する。再開については、COVID-19感染再燃の可能性を考慮し慎重に判断するとなっています。

私はBさんへの答えに「もしかして治療間隔があけられるかもしれないから、担当医とよく相談してみて下さい」と答えました。

他のがんでも、約2年間のCOVID-19の経験を踏まえて、それぞれの専門学会で薬物療法の在り方が検討されています。

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