腫瘍内科医のひとりごと 136 がん治療と妊娠・出産

佐々木常雄 がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
発行:2022年4月
更新:2022年4月

  

ささき つねお 1945年山形県出身。青森県立中央病院、国立がんセンターを経て75年都立駒込病院化学療法科。現在、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長。著書に『がんを生きる』(講談社現代新書)など多数

先日、テレビで、妊娠中の女性が新型コロナに感染し、某大学病院で治療を受けている録画を見ました。

病状は悪化し、エクモ治療で命を何とか保っていました。いよいよ厳しい状況になって、夫は、担当医から「母親の命か、子の命か、どちらを優先するか?」と問われ、「母親を優先してくれ」と答えていました。

その15分後、母親の子宮口が開いたのです。そして、妊娠6カ月、自然分娩で900gの女の子が生まれた。それから3カ月後、子は3,000gに成長して退院できることになりました。そのころには母親の肺も回復しつつありました。

2人とも命が助かり、私は感激して映像を見ていて、ふとAさんのことを思い出していました。

結婚して子にも恵まれていた若い患者

Aさん(初発時23歳男性、独身)は白血病に罹患し、抗がん薬治療で完全寛解となり、再発予防のため骨髄移植を行い、経過は良好でした。このとき、本人の希望もあって、精液の精子の数を調べたところ、正常人の5分の1くらいしかありませんでした。

当時、私はAさんに「抗がん薬治療は生殖機能に影響し、子は授からない可能性が高い」「奇形児が生まれる可能性は否定できない」と話していました。私の頭の中は、まずは白血病が治る事が大切で、子を持つことは2の次でした。無事、5年を経過し白血病は治癒したものと考えていました。

病院に来られなくなって、さらに5年を経過していたある日、Aさんは、近くの病院で貧血を指摘され、久しぶりで来院されました。貧血は、大きな問題はなく、経過をみることになったので、ほっとしました。

このとき、Aさんは2人の元気そうなお子さんを連れてこられました。

病院に通院しなくなってから結婚し、2人のお子さんに恵まれたのです。

長年、私が担当したがん患者で、抗がん薬治療後がんが治り、その後に子が授かった患者は、わかっているだけでも6人います。

ある独身女性患者の場合、通院の必要がなくなって、数年経ってから、患者の母親からの電話で、「子が出来て、お金がかかる。ずっと病院に通院していたことにしてもらえないか」とのことでした。もちろん「それは無理」と話すしかありませんでしたが、そこで子が出来たことを知ったのです。

夢ではない「がんが治り、子供も授かる」こと

妊娠中の抗がん薬の使用では、妊娠初期(16週未満)には胎児への影響を考えなければなりません。動物の実験では、妊孕(にんよう)率、胎児の体重低下、奇形発生の増加が報告されています。妊娠中期以降では奇形発生率の有意の増加は認められないが、胎児発育遅延などの影響の報告があります。

女性の場合、抗がん薬治療後の妊孕性は、卵巣機能が回復していることが大前提ですが、治療終了時点での年齢も影響します。つまり、閉経年齢に近い時期での治療では、そのまま卵巣機能が回復しないこともあるのです。

長年、白血病の治療にあたってきた医師が、白血病が治った後の患者に、その後に出来た子供について全国調査を行ったことがあります。その結果では、健康な方の子供に比べて、奇形発生の増加はなかったことを報告していました。

精子凍結保存、胚(受精卵)凍結保存など、生殖医療の進歩も目を見張るものがあります。

親のがんが治り、その後子も授かる、けっして夢ではないのです。

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