患者の利益は、科学と社会への貢献よりも優先されるべき
臨床試験に参加する患者さんのメリット・デメリット
中島聰總さん
臨床試験に参加するメリット
がんを克服するためには、科学的な研究は欠かせません。その科学的な研究のひとつが人間を対象とした臨床試験です。実際、ここ50年のがん治療をはじめ、検査、がんの発生、進行のメカニズムなどにおける飛躍的な発展は、臨床試験なくしてはあり得ませんでした。この点は誰もが認めるところでしょう。
メリット |
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・その分野の専門医師による治療を受けられます。 ・まだ広く使われていない、最新の治療を受けられます。 ・治験中、いつも以上にあなたの状態をチェックします。 ・もしこの治療が有効なものだったら、あなたは誰より早くその恩恵を受けられます。 |
デメリット |
・新しい治療は医師も知らない副作用などがあるかもしれません。 ・治療の効果や安全性が、現在の一般的な治療より劣っているかもしれません。 ・新しい治療があなたに対しては、有効でないかもしれません。 |
しかし、臨床試験に参加する患者さんにとって、個人的なメリットはあるのでしょうか。人を対象とする医学研究の倫理をテーマとして1964年に採択されたヘルシンキ宣言によれば、「被験者(患者)の利益は科学と社会への貢献よりも優先されるべきである」とされています。ですから、患者さんが個人的なメリットを求めていくのは自然なことです。患者さんが得られる可能性の高いメリットとして、金沢大学医学部付属病院の臨床試験管理センターのホームページ(HP)にはこう指摘しています。
・その分野の専門医師による治療を受けられます。
・まだ広く使われていない、最新の治療を受けられます。
・治験中、いつも以上にあなたの状態をチェックします。
・もしこの治療が有効なものだったら、あなたは誰より早くその恩恵を受けられます。
これに付け加えて言いますと、専門医師も1人や2人ではなく、大勢の専門家に注意深く見守られて治療され、さらに病状回復のために手厚いケアを施してもらえるのです。
もちろん、このようなメリットだけではありません。患者さんにとってデメリットもあり、先の金沢大学のHPにもこう記載されています。
・新しい治療は医師も知らない副作用などがあるかもしれません。
・治療の効果や安全性が、現在の一般的な治療より劣っているかもしれません。
・新しい治療があなたに対しては、有効でないかもしれません。
以上のメリットとデメリットをどうはかりにかけて臨むか。それは患者さんの考え、気持ち次第ですが、これまではともすると、臨床試験のデメリットばかりがクローズアップされがちでした。
GCPは国際的に認められている臨床試験の実施規格
ですが、治験に参加する製薬会社、医療施設、医師は、「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(GCP=Good Clinical Practice)を守らなければ、事実上、臨床試験を行えないようになっています。GCPは国際的に認められた実施規格であり、その運用については「ある意味で欧米より日本のほうが厳しい」と指摘する医師も少なくありません。
つまり、臨床試験を安全に実施するための行政上の整備は整ってきたと言っていいと思います。それがいかに厳格なものであるか、後ほど紹介しますが、下図(臨床試験はこう行われる)をご覧いただければ、GCPに則ったきちんとした臨床試験なら、患者をモルモット扱いするようなものではないことがご理解いただけるのではないかと思います。
そこで、臨床試験を「新しい治療を受ける場および機会」としてとらえ直す視点が必要になってきている、と思うのです。その視点から以下、本稿を進めていきます。
臨床試験の性格を理解するための区分法
では、そんな臨床試験へはどうやってアクセスするとよいのでしょう。アクセスするためには臨床試験の目的とタイプを知り、自分が該当するかどうかを知る必要があります。
臨床試験にはさまざまな種類があり、段階があることは前号で詳しく解説しました。今回、ちょっと視点を変えて、主催者が誰であるか、といった点から区分します。薬を例にとると次のようになります。
1つ目は、医薬品メーカーが新薬承認を得るために行うもの。いわゆる治験です。厚生労働省に申請をして、実施許可が下りたら、がんの化学療法の専門家がいる複数の病院に依頼して行います。
2つ目は、医療施設や医師およびそのグループが行う医師主導型臨床試験です。すでに承認された薬を組み合わせて、いっそうの効果があるかどうかを確認するなどの目的で行われます。
「治験は製薬会社が新薬として承認してもらいたい単一の製剤について安全性と効果を調べるわけですが、医師主導型の試験は複数の薬剤を組み合わせて相乗効果を試すことが主流です。薬の承認とは無関係で、いわゆるEBM、エビデンス(証拠)を確立するための試験と言っていいでしょう」
こう解説するのは癌研有明病院顧問で、わが国初のがん治療ガイドライン『胃癌治療ガイドライン』の作成委員長を務めた中島聰總さんです。中島さんはNPO日本がん臨床試験推進機構の常任理事も兼務しています。
患者さんを含め、どうも一般には治験と医師主導型臨床試験の区別がつきにくく、それぞれの目的や性格もがわかりづらくて混同しがちでした。その点にも臨床試験に対するあらぬ誤解が生じやすかった一因があるのではないでしょうか。
中島さんの解説は続きます。
「医師主導型試験には製薬会社に代わって治験を行うものもあります。海外では承認されているのに、患者数が少なく市場規模が小さくて日本国内での承認発売に積極的でない製薬会社に代わって、新薬候補製剤を試すときなどに行われます。この試験は厚生労働省から依頼を受けた日本医師会が受託し、候補製剤をオープンにして、実施したいという医療施設や医師を募って行います」
ちなみに医師主導型試験は、数年前までは法規制上行いにくい環境にありました。製薬会社から製剤の提供を受けられるとは限らない、混合診療が許されないので参加者(患者)に経済的に多大な負担を強いる、それを避けるために医療施設が肩代わりするなどのハードルがあって大変だったのです。
しかし2002年に薬事法改正があり、翌2003年には改正GCPが施行され、2004年には医師主導型臨床試験実施に関する倫理指針が公表されました。公表が遅いといわざるを得ませんが、とにかく実施するハードルがここ数年で一挙に低くなってきたのです。以上のように主催者によって臨床試験を区分してみると、実質2本立てで行われていることがわかり、その狙いがなんであるか、バックグラウンドがどこにあるか、おおよそ理解することができます。
ただ誤解をしていただきたくないのは、治験は営利が絡んでいるからダメで、医師主導型の臨床試験はそうでないからすばらしい、ということではありません。
「そんなことではなく、臨床試験はなにより試験の目的がしっかりしていて、よくデザインされていることが大事です」(中島さん)
治験でも医師主導型臨床試験のどちらでも、患者さんの病状に合致し、参加してメリットを得られる可能性のある試験があるかもしれないのです。
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