手術をしたが、抗がん剤治療が必要か

回答者:上野 秀樹
国立がん研究センター中央病院 肝胆膵内科医師
発行:2008年11月
更新:2013年11月

  

膵臓がんの3期(JPS分類)と診断され、手術(膵頭十二指腸切除術)を受けました。手術は成功し、がんは取り切れたと主治医に言われましたが、再発を予防するために、抗がん剤治療を行う予定であると言われました。抗がん剤治療は受けなくてはいけないのでしょうか。受けるとしたら、どのような抗がん剤で、効果や副作用はどの程度ありますか。

(三重県 男性 66歳)

A 手術後にジェムザールを行うと、治療成績が向上

膵臓がんのステージは、日本で用いられているJPS分類では1期から4期まで分けられており、これらの中で、1期から4a期の一部までが、根治(がんを完全に取り切ること)を目的とした手術の対象になります。膵臓がんは、根治が期待できる早期の段階で発見することが大変難しく、根治を目的とした手術を受けることができる患者さんは膵臓がん患者さん全体の2割にすぎません。したがって、ご相談者のように、手術が無事に成功し、がんが取り除かれた状況は、喜ばしいことです。

しかし一方で、手術でがんが取り切れても安心できない点が膵臓がんの難しいところです。手術で取り切れたように見えても、実際には、目では見えないような小さながんが残っており、時間の経過とともに再発することが膵臓がんの場合にはよくあるためです。

一般に、手術から5年以上経過しても再発しなければ、がんは根治したと考えることができます。しかし、膵臓がんの場合は、手術を受けた方の半分以上が2年以内に再発し、最終的には8割近い患者さんが再発することが報告されています。再発した場合には、手術でがんを完全に取り除くことは難しいため、そのときの体やがんの状態に合わせて、内科的な治療を検討します。

以上のように、膵臓がんは手術のみでは根治が難しいため、再発を防ぎ、生存率を改善することを目的として、手術に放射線や抗がん剤などを組み合わせる治療(補助療法)が積極的に試みられてきました。その中でも、近年、注目されているのがジェムザール(一般名ゲムシタビン)を用いた化学療法です。

ジェムザールは週1回、静脈から30分かけて点滴注射するタイプの抗がん剤で、3週続けて投与し、4週目は休薬する方法を1コースとして繰り返します。

ドイツで行われた大規模な臨床試験では、膵臓がんの手術後にジェムザールを6コース受けた患者さんのほうが、ジェムザールを受けなかった患者さんよりも、再発するまでの期間が明らかに長く、5年生存率も21パーセント対9パーセントと良好であったことが報告されました。また、日本でも3コースのジェムザール投与を用いた比較試験が行われ、類似した結果が報告されています。

ジェムザールの主な副作用は吐き気、食欲低下、倦怠感、骨髄抑制(白血球や血小板など血液の細胞の減少)、軽い脱毛、湿疹などですが、一般に軽度で、多くの場合、外来での治療が可能です。

しかし、副作用には個人差があり、特に膵臓がんの手術を受けた患者さんは体力が低下しているため、重い副作用が起こりやすく、注意が必要です。副作用の具体的な対処法や注意すべき症状に関しては、治療開始前に主治医から十分な説明を受けて下さい。

わが国では現在、術後に良好な経過をたどり、積極的な治療を希望されている患者さんに対しては、ジェムザールによる補助療法が広く行われています。また、より優れた治療を求めて、新しい補助療法の臨床試験に参加する選択肢もあります。

ただし、抗がん剤には副作用の問題があることから、術後の回復が思わしくない場合や患者さんが希望しない場合には、無理に補助療法をせずに、経過観察を選択する方法もあります。主治医とよく話し合い、十分に納得した上でいずれかの方針を選択して下さい。

同じカテゴリーの最新記事

  • 会員ログイン
  • 新規会員登録

全記事サーチ   

キーワード
記事カテゴリー
  

注目の記事一覧

がんサポート11月 掲載記事更新!