がんになったことで幸福度がアップしました 濾胞性リンパ腫と闘う元プロレスラー垣原賢人さん(43歳)

取材・文●吉田健城
撮影●「がんサポート」編集部
発行:2016年4月
更新:2019年8月

  

かきはら まさひと
1972年、愛媛県新居浜市出身。プロレスラーを志し、高校中退して上京。89年、新生UWFの入門テストに合格し、90年にデビュー。03年には第10回「ベスト・オブ・ザ・スーパー・ジュニア」で優勝。06年、苦しんできた頸椎ヘルニアが限界に達し、現役を引退。引退後は昆虫ヒーロー「ミヤマ☆仮面」として、各地で森林保全を目的とした昆虫イベントを開催している

一昨年(2014年)の12月、元プロレスラーの垣原賢人さんは、悪性リンパ腫の一種である濾胞性リンパ腫(FL)であることが発覚した。病期は最終ステージのⅣ(IV)期。それでも彼は穏やかな表情で話す。「がんになったことで、自分の中での幸福度が上がりました」と――。

腋窩と鼠径部のしこり

スキンヘッドがトレードマークだった元プロレスラー垣原賢人さんは、UWF、新日本プロレス等で活躍したあと2006年に引退。その後は、スポーツジムでトレーナーをする傍ら、趣味のクワガタ採集を活かして「ミヤマ☆仮面」という昆虫キャラクターのマスクマンに変身。子どもたちに向け、各地で森林保全を目的とした昆虫イベントを開催するようになった。

「ミヤマ☆仮面」は筋骨隆々としたマスクマンなので、ボディビルダーのような肉体を維持しなくてはならない。そのため垣原さんはプロレスを引退したあとも、ウエイトトレーニングを毎日欠かさずに行っていた。その習慣化していたウエイトトレーニング中に、腋の下に異物が挟まっているような違和感を覚えるようになったのは、2014年秋のことだ。

それだけでなく、夏ごろから太腿の付け根の辺りにもしこりが出来ていたので、垣原さんは何か体に異変が起きているのではないかと不安になり、その年の12月上旬、近所のクリニックを訪ねて診てもらった。診察した医師は検査で鼠径部、腋窩、首(頸部)のリンパ節に大きなしこりが出来ているのを確認すると、すぐに大きな病院に行き、詳しい検査を受けたほうがいいと、近隣の大学病院あてに紹介状を書いてくれた。

翌週、垣原さんは大学病院を訪ね、詳しい検査を受けたところ、血液がんの一種である悪性リンパ腫、その中でも濾胞性リンパ腫というタイプのものだと判明した。

腫瘍は腋窩、鼠径部、首のリンパ節だけでなく、胸部や腹部にも広範囲に広がっており、病期はⅣ(IV)期だった。

 現役時代の垣原さん(左)。
 試合では常に〝死〟を意識してリングに上がっていた

現役引退後、垣原さんは「ミヤマ☆仮面」として、子どもたちを相手に各地で森林保全を目的とした昆虫イベントを開催している

R-CHOP療法を開始

垣原さんは主治医から、濾胞性リンパ腫について詳しい説明を受けた。

「主治医の先生からは、治ったように見えても再発することが多いしつこいがんだと言われました。その少し前に高倉健さんが悪性リンパ腫で亡くなっていたので、漠然と『怖い病気だな』と思っていたのですが、すぐに命に関わるようなことはないからと言われ、少しホッとしました」

治療法に関する説明もあり、初めは標準治療であるR-CHOP療法を行うという説明があった。1クール3週間で、約半年ほど行うというものだった。告知された際の心境はどうだったのだろう?

「がんだと言われても、現実味が無くて、『まさか、この俺が?』という感じでした。プロレスラーだったので体には自信がありましたし、大病もしたことがなかったので、自分の体を過信していたんです」

垣原さんは昨年(2015年)1月下旬から2月にかけて3週間ほど入院してR-CHOP療法の1クール目の投与を受けることになった。しかし事前の検査で心電図に異常が見られたため、最初の1クールに関しては、R-CHOP療法から、心臓に負担がかかるアドリアシンを除いた治療が行われた。

副作用はどうだったのだろう?

「投与した当日は強烈な頭痛と吐き気に襲われました。それ以外に脱毛、手のしびれ、爪の変色などがありましたが、予想していたほどきつい副作用はありませんでした」

R-CHOP療法=リツキサン(一般名リツキシマブ)+エンドキサン(同シクロホスファミド)+アドリアシン(同ドキソルビシン)+オンコビン(同ビンクリスチン)+プレドニン(同プレドニゾロン)による多剤併用療法

食事療法、漢方、温熱療法も取り入れる

闘病中の垣原さん。娘さんの綾乃さんと一緒に

がんだとわかった時点で、垣原さんはゲルソン療法を開始している。

これは①塩分の禁止②動物性食品は原則禁止③脂質の制限④大量の野菜・果物ジュースの摂取――などを特徴とする食事療法である。

「ゲルソン療法を行おうと思ったのは、私の大学生の娘(綾乃さん)がこういう食事療法があると知らせてくれたのがきっかけでした。図書館で本を借りてきて少し勉強したのですが、肉類や塩分で内臓に負担をかけないという考え方が理に適っていると思い、やってみることにしたのです」

ゲルソン療法は過酷な食事制限を伴うため途中で音を上げて、止めてしまう人が多いが、垣原さんはどうだったのだろう。

「止めようとは思いませんでした。過酷なので、それがかえって良かったんです。プロレスラーはつらい練習をすればするほど強くなれる、上にいけるという考えがあるので、過酷な療法をすればするほど得るものも大きいという気持ちでした。今思えば、当時は不安なことばかりだったので、何か1つのものに没頭することで、恐怖心から逃れたかった。それが僕の場合はゲルソン療法だったのかもしれません」

垣原さんは漢方にもトライしている。

「若いころから知っているお医者さんに漢方を専門にしている先生がいて、その方に血液検査の結果を見てもらって、そのときの僕の状態に合った生薬を調合してもらいました。毎日それを20~30分コトコト煮て服用していました」

毎回強烈なにおいが発生するため、「それをかぐだけでもすごくしんどかった」が、少しでも体に良いものをという思いで、毎日服用していたという。

もう1つ実践したのが、コンニャクを用いた温熱療法だった。

「10分くらい煮たコンニャクをタオルにくるみ、仰向けに寝て丹田(へその下3寸の部位)のところに置くんです。それを30分くらいやったら、今度はうつ伏せになって背中の腎臓のところに30分くらい置くのですが、これを行うとオシッコの出もよくなり、抗がん薬によるむくみ(浮腫)が取れました。温めることで、臓器の働きが良くなったのではないかと思っています」

このように垣原さんは体に良いとされる様々な方法を取り入れながら、R-CHOP療法を行い、7月上旬、予定通り全てのクールを無事に終えることができた。

同じカテゴリーの最新記事

  • 会員ログイン
  • 新規会員登録

全記事サーチ   

キーワード
記事カテゴリー
  

注目の記事一覧

がんサポート11月 掲載記事更新!