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味覚も言葉も損ねない舌がんの小線源治療
知ってほしい!手術よりもはるかにQOLが高いことを

監修:渋谷均 東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科教授
取材・文:松沢 実
発行:2003年12月
更新:2013年4月

  
渋谷均さん
舌がんの小線源治療で最も症例数の多い、東京医科歯科大学教授の渋谷均さん

がんの治療では、命が助かるのだからと、思い切った治療が施されることも多い。しかし、術後に後遺症が残ったり、抗がん剤の副作用に苦しんだり、場合によっては合併症が原因で命を落とすこともある。

がんが治る時代に入った今、医療の視点は、より快適な治療後の生活に向けられ始めている。

体にやさしい、負担の少ない医療の最新情報をお届けする。

舌の形態も機能も維持できる小線源治療

写真:渋谷さん治療を行う装置の前で

治療を行う装置の前で、渋谷さんは「小線源治療では治療前とほぼ変わらない生活を送れる」と語る

近年、舌がんに対する放射線の小線源治療が大きな注目を浴びている。放射線を出すイリジウムなどの線源をがん病巣に刺し入れるだけで治癒可能で、舌の形態と機能がそのまま温存できるからだ。舌を切除するという手術が9割近くにのぼる舌がん治療の現状に対し、患者の生活の質(QOL)の維持という観点に鋭く切りこんだ画期的な治療法といえる。

舌がんに対する小線源治療のメッカは、東京医科歯科大学病院放射線科(渋谷均教授)だ。月に6~7人、年間80人以上の舌がん患者に小線源治療を行い、日本はもちろん、世界でもっとも数多い治療実績を誇っている。

「小線源治療のメリットは、味覚や会話などの舌の機能と形態が残せるため、これまで通りに食事を楽しんだり、会話ができることです。唾液腺の分泌や顎の関節運動などにも障害を起こさないので、患者さんは治療の前とほぼ変わらない生活を送ることができるところに大きな特長があります」(渋谷さん)

舌の再建術は形だけの手術

写真:モニターで患部の治療の様子をチェック

モニターで患部の治療の様子をチェック。セシウム針を刺し入れたX線画像

舌は、(1)味を感知する味覚機能のほか、(2)言葉をつくる機能、(3)ものを呑み込む機能、(4)ものを噛むための機能の四つがある。手術で治療する場合、がんの進行程度によって切除範囲(部分切除、半切除、亜全摘、全摘)は異なるが、いずれにしても舌にメスを入れるので先の四つの機能が大きく損なわれる。

「最近は手術で切りとった舌の欠損部に腕の皮膚や腹の筋肉・皮膚を移植して再建しますが、再建したところの舌に味覚機能や構音機能、嚥下機能、咀嚼機能はなく、いわば形だけの再建なのです」(渋谷さん)

再建手術で舌の形は戻せても、味はわからなくなるし、言葉も不明瞭になる。ものを飲み込んだり噛んだりすることも、これまでとは異なった違和感を覚えるようになる。

いまや「がんが治り、命が助かればよい」という時代ではない。がんを治すことはもちろん、治療によってもたらされる障害や副作用を最小限に抑え、快適な生活を送れる治療法が求められている。舌がんに対する放射線の小線源治療は新たな時代にふさわしい治療法だからこそ、患者とその家族から熱い関心が寄せられているのである。

具体的にどんな治療か

写真:放射線源を保管している保管庫

放射線を放出する各種の針を患部に刺し入れる放射線源を保管している保管庫

写真:放射線源のセシウム針(左)と金粒子
放射線源のセシウム針(左)と金粒子

写真:放射線源を保管している保管庫
イリジウム針

舌がんの小線源治療は、低い線量を照射するのと高い線量を照射するのと二つの方法がある。前者はイリジウムなどの放射線源を直接がん病巣に7日間刺し入れる方法で、後者はチューブ(線源誘導管)を入れ、その中に放射線源を通して照射する方法だ。

「東京医歯大病院の舌がん治療では、正常組織に放射線障害を与えることが少ない低線量率照射を行っています」(渋谷さん)

低線量率照射は局所麻酔で行う。がん病巣に刺し込む放射線源は、セシウム針、イリジウムピンと金粒子の3種だ。

セシウム針は長さ4センチ、直径1.8ミリの針状で、腫瘍の厚みが8ミリ以上の場合に使用する。後述のイリジウムピンより、刺入箇所から少し離れたところでも放射線量が低下しにくいからだ。

イリジウムピンは長さ4センチ、脚間12ミリの門型で、直径は約1ミリ。曲げることもできる針金状の線源だ。腫瘍の厚みが8ミリ未満の場合に使用する。

「いずれも7日間刺しっぱなしで、がん病巣に70グレイの放射線量が当たるように刺し入れます。治療期間中は隔離病室で生活してもらいます。その間、口から食べるのは難しいので、鼻から胃の中に挿入した経鼻胃管で栄養を補給します。イリジウムピンの場合は、口から流動食を流し込むこともできます」(渋谷さん)

金粒子は長さが2.5ミリ、直径0.8ミリの円柱状の放射線源だ。いったん、がん病巣に刺し入れたら、異物感がないので治療後も入れたままにする。

「隔離病室での生活は同じですが、こちらは食事も会話も普通にできます」(渋谷さん)

がん病巣に1週間で70グレイの放射線が当たるように埋め込むが、治療成績はセシウムやイリジウムピンより若干落ちる。しかし、患者の肉体的負担がほとんどないので、体力のないお年寄りや、心身に不安があり、セシウム針などを入れたままでいるのが無理な患者に使用する。

顎の骨を守ることが大切

小線源治療で重要なのは、顎の骨を守るアクリル製のマウスピース(スペーサ)だ。放射線源を舌のがん病巣に刺し入れている期間、装着し、顎の骨を放射線から守り、顎における放射線障害を防止するための必須アイテムである。

舌は通常、下顎骨に接している。加えて、下顎骨は筋肉がほとんどなく、皮が被っているだけで粘膜の血流も少ない。そのためスペーサを付けないと、舌へ入れた放射線源からがん病巣にあたるのと同じ量の放射線が下顎骨にも照射され、放射線潰瘍が起こり、骨が露出したり、さらに下顎骨の壊死から放射線骨髄炎が高頻度に起こる。

実は、舌がんの小線源治療では、放射線潰瘍や下顎骨壊死を予防できるか否かがQOLの維持の決め手となる。予防できないと生涯、患部が膿み、痛みや不快感などに悩まされる。それを防ぐのがスペーサである。 「スペーサは下の歯に装着し、舌と下顎骨の間に10ミリの隙間をつくります。放射線の被爆量は距離が離れるほど減るから、とくにスペーサの中に鉛などの放射線遮蔽材料を挟まなくても、10ミリの隙間ができれば5分の1以下に減少させることができます。つまり、照射量70グレイの5分の1以下の線量しか下顎骨に当たらないので、放射線障害を予防できるのです」(渋谷さん)


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