手術後1~2カ月の食欲が出てくるころが要注意!
何をどのように食べたらいいの? 大腸がん治療中の食事
小松美佐子さん
食べ物の消化・吸収に欠かせない大腸だが、大腸がんで手術、化学療法を行っている場合どのような食事が良いのか、患者さんや家族は悩むことが多い。食べて良いもの悪いものってある?どんな食べ方がいい?専門家に話を聞いた。
術後早期に食事開始 腹6分目を目安に
「近年、大腸がんの手術後は、以前に比べて入院中の食事の開始時期が早くなり、普通食への移行期間が短縮されている傾向があります」と東京都立駒込病院栄養科栄養科長の小松美佐子さんは話す。
従来、大腸がんの手術後は、通常の場合、手術後3~5日間の絶食を経て、ガスが出るのを確認してから食事開始となり、食事内容も流動食、三分粥食、五分粥食、全粥食と、軟らかいものから段階的にゆっくりと普通食に進めていくケースが多かった。
ところが近年、医療の世界では、手術前後の栄養管理を積極的に進めるERAS(手術後回復力の強化)という考え方が普及し、水分や食物の絶飲食期間を最小限にする場合が増えている。
「当院でも食事の積極療法が導入されています。病状にもよりますが、通常は大腸がんの手術翌日には水やお茶などの水分摂取、手術後2~3日目には五分粥食程度から食事が始まり、その後全粥食に移行します」
五分粥食の献立には、煮魚や野菜の煮物など、栄養バランスを考えた副菜を添えている。もちろん、材料も調理法も吟味され、患者さんが上顎と下顎でつぶせる程度に軟らかく煮た消化のよい状態で出されているという。
「手術後は、最初から全部食べようと無理をせず〝腹6分目〟を目標に、ゆっくりとよく噛んで、ご自身が食べたいものを少しずつ召し上がればよいでしょう」
手術後3カ月間は 段階的に食事を進める
大腸は消化器の最後に位置し、胃で消化され、小腸で栄養が吸収された食物の残りカスからさらに水分を吸収して、便にまとめ上げる臓器だ。手術後しばらくは大腸の蠕動運動が鈍り、便にまとめる機能が低下するため、排便コントロールがしにくくなり、頻便、下痢、便秘といった症状が起こりやすい。
また、開腹手術後およそ3カ月間は、*腸閉塞を発症しやすいといわれる。腸閉塞が起こったら直ちに絶飲食、入院が必要となり、最悪の場合は緊急手術が行われることもある。このような手術後のトラブルを防ぐためにも、退院後の食生活ではどんな点に気をつければよいのだろうか。
「退院後、原則として食べてはいけないものはありませんが、手術後3カ月程度は、腸閉塞の予防のためにも、好ましい食品と注意する食品(表1)を知り、調理方法、食べ方の3つのポイントに注意して、段階的に食事を進めていただくとよいでしょう」
●好ましい食品を中心に……手術後1~2カ月間は、表1左列の好ましい食品を中心にしたメニューを、なるべく軟らかく調理して食卓へ。「穀類ならお赤飯などは控えて、軟らかめのご飯やお粥、煮込んだうどんなどにするといいですね」
右列に挙げられるひじき、ゴボウ、レンコン、パイナップル等の硬くて食物繊維が多い食品や、便の量を極端に増やす食品、発酵する食品、刺激物、アルコール飲料等は、大腸の粘膜を刺激し、負担をかけやすいので、手術後はある程度抑えて、体調を見ながら徐々に増やしていくとよいそうだ。
●調理方法を工夫して……退院直後は、好ましい食品を軟らかく十分に煮て食べるとよい。右列の注意する食品も、体調が戻ってきたら、調理方法を工夫して少しずつメニューに採り入れ、種類や量を調節しながら、徐々にもとの食事に戻していく。
「ゴボウやレンコンを食べるとき、初めはすりおろしてハンバーグに混ぜるなどの工夫をして、だんだん慣らしていきます。油脂の多いカレーや、かん水などの添加物が含まれるラーメンも麺のコシが強く消化が悪い食品ですが、患者さんが食べたいと希望したときは、スプーン1口、小皿1杯から試してみて、問題がなければ少しずつ増やすといいですね。患者さんの体調を見ながら徐々に調整し、大体3カ月程度で右列の食品も採り入れたもと通りの食事が食べられるように進めるとよいでしょう」
●ゆっくりよく噛んで食べる……食品選びや調理方法に注意を払っていても、手術前と同じ食べ方をしていたのでは大腸にも負担がかかる。ゆっくりとよく噛んで食べるのは消化器の手術後の鉄則だ。過食や早食いが腸閉塞につながることもあるので、食べる量は手術前より控えめに。
「手術後は、摂取カロリーや栄養に神経質になるよりは、おいしく、楽しく食べられるようにすることが大切です。頑張り過ぎず、腹6~7分目にしておくと大腸への負荷も軽くなります」
*腸閉塞=腸の一部が癒着し、食物の通過障害により激しい腹痛や吐き気をもよおす病態
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