体と心をケアする処方箋

乳がんのホルモン療法による副作用「体重増加」をどう防ぐ?

監修●NPO法人「リ・ヴィッド」(乳がん支援グループ)
監修●堀 泰祐さん 滋賀県立成人病センター緩和ケア科部長
監修●鴇田佳津子さん 京都大学非常勤講師・健康運動指導士
監修●梅田陽子さん 京都大学非常勤講師・健康運動指導士
取材・文●池内加寿子
発行:2005年2月
更新:2019年12月

  

滋賀県立成人病センター緩和ケア科部長の堀 泰祐さん

乳がんの手術後にホルモン療法を行うと、体重が増加しやすく、肥満傾向になりがち。直接命にかかわらないこともあり、ほかの副作用に比べて見過ごされやすいのですが、当の本人には切実な悩みです。今回は、読者から寄せられた手記と、専門家のアドバイスをQ&Aでお届けします。

読者の手記 ホルモン療法を始めて、1年で5kgも体重増加
“トドみたい”と家族に言われて、ショックです!

イラスト

私が乳がんになったのは、41歳の誕生日を目前にしたときでした。右乳房のしこりに気づき、婦人科専門病院を受診したところ、すぐに乳がんが疑われ、がん専門病院を紹介されました。

その病院で約2センチの腫瘍を乳房温存法で摘出。リンパ節転移があり、ステージはIIA。術後は放射線治療とホルモン療法をすることになりました。

ホルモン療法は、1日2回ノルバデックス(一般名タモキシフェン)の服用と、月1回腹部に皮下注射するLH-RH拮抗剤ゾラデックス(一般名酢酸ゴセレリン)を併用する方法で、前者は5年間、後者は2年間です。

「これらのホルモン療法をすると、更年期障害と同じような副作用が出る」という医師の説明どおり、のぼせや軽いめまい、頭痛などがときどき起こりました。でも、抗がん剤の副作用のような吐き気や脱毛などのハードなつらいものではないし、ホルモン療法が効くタイプでよかった、と思いました。

ところが、いちばんやっかいなものがあったのです。それは私の体重でした。身長150センチで、ずっと40キロジャストをキープしていたのに、1月にホルモン療法が始まってから、2カ月後には2キロ、4カ月後には3キロ、半年で4キロ、1年で5キロ増と、短期間でどんどん太り始めたのです!家族にはトドみたいと言われ、さらに実家の母から「そんなに太って、がん以外の病気じゃない?」と言われてショックでした。

本で調べてみたら、ホルモン療法の副作用の1つに「体重増加」があり、主治医に「体重が増えて困るんですけれど」と訴えても、「ああ、そうですか」でおしまいでした。

食事の量や内容は以前と同じですが、ホルモン療法を始めてから、食欲が増進したような気もします。2年間のゾラデックスがもうすぐ終了するので、ダイエットをしたいと思います。よい方法を教えてください。

(神奈川県・西村綾子さん・仮名)

Q&A 医師に聞きました
乳がんのホルモン療法と体重増加の関係は? どんな人が太りやすいの?

堀泰祐さん
堀 泰祐さん

回答・堀 泰祐さん

Q ホルモン療法では、どのような薬が体重増加を起こすの?

A 乳がんに対するホルモン療法剤には、大きく分けて、抗エストロゲン剤、アロマターゼ阻害剤、LH-RH拮抗剤、プロゲステロン製剤があります。
体重増加に一番強い影響を与えるのは、プロゲステロン製剤のヒスロンH(一般名酢酸メドロキシプロゲステロン)です。女性ホルモンの一種で、この薬剤を飲むと食欲が増進し、体重増加が起こります。
抗エストロゲン剤の中で、ノルバデックスは体重増加が起こりやすい薬です。アロマターゼ阻害剤(アリミデックス、アロマシン)とLH-RH拮抗剤はそれほどではないようです。ただ、LH-RH拮抗剤のゾラデックスには、脂肪の吸収促進、体重増加、中性脂肪値の増加、脂肪肝や肝障害を起こす可能性があると言われています。
体重増加の起こるメカニズムについてはよく分かっていません。

写真:ノルバデックス
ノルバデックス
写真:ノヒスロンH
ヒスロンH

Q ホルモン療法で、体重が増加しやすい人のタイプは?

A やはり、もともと体重がオーバー気味の人がそのような傾向があります。やせ気味の人が問題になることは少ないようです。

Q 乳がん患者は、体重が増加すると乳がんの発生を促進してしまうと言われます。それはなぜですか。

A 乳がんの治療薬としてホルモン剤を使用し、乳がん発生に影響するエストロゲンの働きを抑制します。ところがその副作用として体重が増加すると、脂肪組織の中でエストロゲンが生産されるので、乳がんの発生を促進してしまうからです。

Q 前立腺がんのホルモン療法で、体重が増加することは?

A かつて、前立腺がんの治療に女性ホルモンを頻用していた時代があり、そのころは体重増加が問題になっていました。最近ではLH-RH拮抗剤が主流になっているので、体重に関する問題は少なくなっているようです。

Q 主治医が体重増加に無関心なのはなぜ?

A 主治医は、乳がんを治療することに重点を置いているので、体重増加をあまり重く見ていない傾向はあると思います。
私自身は、これらの薬剤を投与するときには、「体重が増えるかも知れないので、ダイエットをしっかりしてください」と説明しています。すべての患者さんが体重増加するわけではありませんし、体重増加に抵抗のない患者さんもいますので、一律の指導は難しいかも知れません。ただ、患者さんから体重増加を相談されたら、フィットネスやダイエット法を指導する必要はあるでしょう。

Q ホルモン療法終了後は、体重が元に戻る?

A ホルモン療法由来の体重増加については、薬剤を中止すれば解消されるはずです。しかし、ホルモン療法中に身についた食事習慣は意識的に改善しなければ、体重の抑制にはつながらないでしょう。

乳がんのホルモン療法とは……

乳がんの場合、手術後ハイリスクの人に対して術後補助療法が行われます。どういう治療をするかは女性ホルモンに対する感受性の有無やリンパ節転移の有無、閉経前か閉経後かといった条件で変わってきます。乳がんはホルモン依存性のがんと言われ、6、7割は女性ホルモンの刺激で増加します。女性ホルモンに対する感受性のある乳がんか、そうでない乳がんかは、手術でとった乳がん組織中のホルモン受容体(エストロゲン受容体とプロゲステロン受容体)を検査することによりわかります。こうした女性ホルモンに感受性のあるタイプの乳がんには、女性ホルモンの働きを抑制する薬が効果的です。ホルモン剤は抗がん剤に比べて副作用が少ないのもメリットです。尚、ホルモン療法は、術前に行われる場合もあります。


[ホルモン剤の作用メカニズム]
図:ホルモン剤の作用メカニズム


NPO法人「リ・ヴィッド」

乳がん術後の運動障害に悩む患者さんを対象に、京都大学非常勤講師で健康運動指導士の鴇田佳津子さん、同・梅田陽子さんは、運動療法の講座「Re-vid」を開催。患者さんの多様なニーズに応えるため、これをさらに発展させたボランティアの専門家による支援組織「リ・ヴィッド」が発足しました。体や心の悩みをかかえる患者さんに、術後のケアに役立つフィットネス、心理面をサポートするグループ療法、暗くならない勉強会、専門家による電話相談などさまざまな活動を行っています。乳がん体験者、専門家の参加も大歓迎。

■連絡先
〒604-8125 京都市中京区中魚屋町494甍・林治408号室 TEL・FAX(075)257-5935
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